二人の食卓・カチャトーラ

 

僕が東京で就職したから、狂児は相変わらず通って来てる。
「祭林組東京支社支社長言われてんねん」
 狂児はちょっと嬉しそうに言う。
「○林組みたいやな……コンクリの扱い方がちゃうけどな」
「言うなぁ、聡実くん。コンクリなんかド素人しか使わへんで? ドラム缶に流し込んでみ? アホほど重うなるやん? 重機ないと動かされへん。それに、海放っても浮いてきよるからな、ガスでな、」
「もう、ええから」
 狂児は、僕が学生の時は、部屋にはあまり寄り付かんかったけど、引っ越ししてからはよく泊まって行くようになった。
「鶏肉の煮込み作ってんのに……トマト味やのに……」
「煮込みて。なんやオシャンな名前ついとったやん?」
 スマホで動画を確認してみる。
「チキンカチャトーラやって」
「チャカトーラ?」
「カチャトーラや! 物騒にせんといて」
 一緒に狭いキッチンでご飯作るのも、時々やけど、楽しい。楽しいから、鼻歌が出てしまうことも。
 ♪まいごのまいごのこねこちゃん~
「うん、聡実くんは子犬ちゃんやけど、子猫ちゃんでもええな」
 鼻歌は極小ボリューム、呟くような声量なのに、拾われ、あれこれ言われることもしばしば。
「何がええのかわからんわ」
 ♪あなたのおうちはどこですか
 なまえ~をきいてもわからない
 おうち~をきいてもわからない
 にゃんにゃんにゃにゃーん にゃんにゃんにゃにゃーん
「聡実くん、今日はちょっとあざと過ぎるんやないか」
「は? なにが?」
 ♪な~いてばかりいる こねこちゃん
「ああ、迷子になったんやったなぁ? トラウマなん?」
「トラウマちゃうけど、あんな走り書き地図で取引先行け言われて、書いてあった住所もビル名も間違うてて、さっぱり違う駅で降りてしもて、しんどかってん……もう嫌や、二度とごめんやわ、あの人の地図……ん?」
「どしたん?」
「なんか、昔、似たようなことあったな……」
「あったなあ!」
「ははは、レタス千切って、狂児」
「はい、聡実先生」
 バリイッ!
 音に驚いて見てみると、狂児はレタス一玉を大きな手で捻くるように粉砕しとった。
「ちょ、なんで一玉全部?! 何枚か剥がしたら良かってん」
「え? そうなん?」
「どうするねん……サラダにレタスこないにようけいらんわ」
「ごめんて、俺が食うから」
 チキンが出来上がりそうやから、サラダに取り掛かったのに。
 ♪ いぬの~おまわりさん こまってしまってわんわんわわーん わんわんわわーん
 やわ。
「聡実くん、気になってたんやけど、なんで俺の敵対する組の歌なんか歌うんや。あかんやろ、しかも可愛い声で」
「組ちゃうやろ、お巡りさんや。公務員やで……もう、できたと思えへん?」
 鍋の中でチキンが美味しそう。
「お皿出してくれる?」
「ん、聡実くん、もうちょっと体格良かったら似合いそうやなポリの制服」
 狂児は棚から皿を出して寄越しながら、ニッと笑う。
「どうせヒョロガリや」
「聡実くんはそれがええねや……それに言うほどガリやないし、そそる体してるわ」
 脇を抱かれて、スススと撫でられる。
「はは、迷惑行為で逮捕したろか? 生クリーム出して、冷蔵庫の」
「ちょっとなぁ、それ、シャレにならへんからなぁ……開ける?」
「うん、開けて」
 紙パックはこじ開けられて、台の上に置かれた、と思ったら、後ろに回り込まれて、抱きつかれ、首にキスされる。
「なにやってんねん。危ないやろ」
 皿左手に持って、右手にお玉持ってんのに。
「ちょこちょこ充電せんと。おっさんはすぐバッテリー切れんねん」
「手錠かけたろか。悪さできひんように」
「お? 事務所にあんで。持って来る?」
 狂児はパッと離れて、横に立った。
「ええ~? なんかコワいことに使ってるやつやろ、それ」
 皿によそって、生クリームをちょっと回しかける。
「せやで。サラもあんで?」
「うぅ~ん……ええけど、かけられるの狂児やで?」
「ええよぉ! かけてかけて!」
 両の拳をくっ付けて差し出してきた。
「なんでそないにノリノリやねん、引くわ」
「聡実くんにワッパかけられたいやん~」
「やん……」
「制服もあったなあ。着る?」
 炬燵テーブルの上にできた料理を並べて。
「え? 本物ちゃうやんな?」
「本物やで? 警棒もあんで?」
「こわ。ヤクザこわ」
「持って来るから、しよな、お巡りさんプレイ。聡実くんのウエストなら婦警さんでもイケルで!」
「それは、絶対嫌」

 小さな食卓。
 パンが、狂児がデパ地下で買ってきてくれたやたら高級なパンやから、ちょっとちぐはぐ。
 出来た料理、このパンに負けん美味しさになってると思いたい。

「「いただきます」」

 

 

 

 

真夏の通り雨

 

俺は、聡実くんから、今まで二回告白されてると思う。

 一回目は卒業文集。
 アニキらが子供の卒業文集の話題で盛り上がってて、唐突に聡実くんどんなこと書いたんやろ? って閃いて、軽い気持ちで若い奴に立石高校の卒業文集借りてきてくれと頼んだ。そしたら、意外と有能な奴で、すぐ持って来よった。
 3年4組岡聡実……まさか自分のことが書いてあると思わんかった……驚いた。まさに青天の霹靂、と同時に面映いやらこそばいやら。
 あの時聡実くんはこんな風に思うてたんや……驚きつつも読み進めた。

 声変わりがしんどかってんな。
 部長やったのに、重要なパートを任されたのに、合唱祭と声変わりが重なってしもうて。そんなにしんどい想いしてるやなんて気がつかんかった。
 カラ天で肘ついて炒飯食べてた姿を思い出す。
 俺に付き合うて歌聴き聴き炒飯食べてる暇ほんまは無かったんやろ。第二次成長期ってやつやから、練習でどうにかなるもんやないけど。
 顔に投げつけられた〝げんきおまもり〟が、お父さんから貰った物で、要らんから俺にやろって事務所界隈まで来たなんて、知らんかった。俺の為にわざわざ買って持って来てくれたんかと思っとったわ。
 俺もちょいショックやけどな、お父さんには同情するで。て言うか、文集、ご両親読まはるんとちゃうの? 大丈夫? ヤクザに歌教えてました。合唱祭の日はスナック行ってヤクザのカラオケ大会カチ込んで、どうも死にくさったらしいそのヤクザの為に「紅」歌いました、って書いてあるで?

 あの年、八月のカラオケ大会の日、聡実くんにとっても勝負の日やったのにな。
 部長として立つ最後の舞台と俺の行方尋ねてカツ子に行くのを、聡実くんは天秤にかけた。ギリギリ声が出るか出んかの瀬戸際やったんとちゃうの? それやのに、来てくれてんな。まだ十四かそこらで、そんなギリギリの生き方したらあかんかってんで。俺とちゃうねんから。
 結局、合唱祭を棒に振って、ヤクザのおっさん達の前で「紅」歌う羽目になって。その事実に、改めて打ちのめされた。
 あの「紅」
 カラ天で聡実くんは歌ってくれへんかったから、俺も聡実くんの歌声聴くのは初めてやった。
 圧倒されたな。今でも目を瞑ると聞こえてくるようや……本当に。
「地獄でも今後狂児が刺青を彫られることのないよう、
 僕は狂児の代わりに力を振り絞って歌いました。」
 泣かしなや、おっさんを。ここの前まで読んだだけでも、だいぶと泣きそうやったのに。
「僕が泣くと狂児はいつも笑うのです。」って聡実くんは書いてるけど、可愛かったから笑って誤魔化してたのかもしれん。
 自分のことやのになぁ……ようわからんわ。泣いてた聡実くん可愛かったから。あの泣き顔忘れられへん。額に入れて飾っておきたいぐらい。
「狂児は今どこで何をしているのでしょうか。」
 聡実くん歌も上手いけど、文章書くのも上手いんやな。色んな出来事が鮮明に思い出されて、「ここにおるけど」って呟いてしもた。

 この文集読むまでは、中学三年生の後半と高校の三年間あれば、ヤクザのおっさんに振り回されてたことなんて忘れるやろ、俺は聡実くんの人生からフェードアウト出来てるやろと思ってた。
 出来てなかった。
 この最後の行がある意味仕上げや。俺にとって。たぶん聡実くんにとっても。そう思ってええかな?
 なんで、俺のことなんか、高校の卒業文集に書いたん?
 聡実くんには、いつも不意打ちをかまされ、心乱される。

 心乱れるままに空港に行ってしもた俺やけど、そこでも、また、度肝を抜かれることがあった。
 聡実くんや! 久しぶり~って逸る気持ち抑えながらこそっと近づいたら、三年半前カラ天に拉致ったとき渡した俺の名刺を眺めてた。おにぎり食いながら。
 俺は年甲斐もなく動揺して、隣に腰掛けながら「しょっぼい名刺やなあ」って言うのが精一杯。
 いきなり跪いて「結婚してください」言わんかっただけでも偉いわ。ほめて欲しい。
「なんで名刺見てたん?」って羽田着いたら聞いてみようか? なんて、俺はフライトの間中ソワソワしてた。結局聞けんかったけど。
 ……でもな、聡実くん、いずれにしても、文集やねん。
「狂児は今どこで何をしているのでしょうか。」やねん。
 高校の卒業文集に、中学の時出会った、君からしたら〝無理矢理出会わされた〟って心境やったやろうけども、ヤクザのおっさん=俺のこと書く時点で、憎からず思うてるんとちゃう?
 俺まちごうてる?

 二回目は、一年前。
 聡実くんの十九の誕生日にあと二日と迫った日やった。
「もうすぐ十九歳の誕生日やなぁ、何か欲しいものある?」って聞いてみた。
「なんもないです」
 張り合いのない返事やった。
「でも、何かあげたいなぁ……せや、車買う?」
「そんなごっついもん、貰えるワケないやないですか」
「大学行くのに便利かな思うて」
「維持費かかるわ」
「それも込みで」
「そんなら、車で」
 聡実くんは投げやりに答えた。
「ええよ」
 聡実くんが欲しいもの、それが何でも、俺の返事は決まってた。
「もう……冗談で言うたのに。貰われへん、って言うか、物はいいです」
「そう? 税金やら車検やら駐車場借りる金なら、俺が死んでもどうにかなるように、組の誰かに頼んどくけど」
「なんでッ?!」
 凪いでた声と表情がいきなり大時化になって、フリーザ降臨させてしもたと気づいた時には遅かった。
「なんで、そんな形見みたいな言い方すんねん!」
 お兄ちゃんなったなぁ思ってたけど、怒ると可愛い顔がめちゃ険しくなるのは変わってなかった。
「何もいらん。もう突然姿消したりせんようにして欲しい」
 明るい茶色の目がまっすぐ俺を見た。
「それだけです」
 こらまた、目にも止まらぬ豪速球。しかも直球や。手も足も出ぇへん。
 俺はまた動揺した。動揺するままに口走った。
「わかった。聡実くんがそない言うなら。努力します」
 俺の返事はかなり間抜けやったから、聡実くんは吹き出して笑った。表情がころっころ変わる子や。
「なんや、それ、努力って。努力でどうにかなりますか?」
「なるやろ」
「仕事が仕事やのに」
せやねんなあ……でもなあ、これぐらいしか言われへんしなぁ」
「もうええです……せいぜい努力してください」
「はい、肝に銘じます……もの要らんやったら、美味しいもん食べに行く?」
「うん」
「焼肉? 寿司?」
「ええんですか?どっちにしよ?」
 微笑みに癒され、同時に心乱される。聡実くんとおると。


 実を言うと、三回目かな、って思うてることもある。
 でも、微妙。これを三回目に数えていいかどうか判断に迷うところ。
 それは、この前、春休みで聡実くんが大阪帰って来てた時のこと。

 あの日は、急に雨が降って来て、待ち合わせたスタバに傘さして近づくと、聡実くんは外に面したカウンター席に一人座ってた。
 絵になる子やな……
 それは、市民ホールで合唱してる十四歳の聡実くんを客席から観た時から感じてた事。
 ガラス張りの店。ハイスツールに腰掛けて、珍しく背筋を伸ばして、両手は膝に投げ出している。細長い足を細いボトムに包んで、白いスニーカーから覗く足首が白くて寒々しい。イヤホン耳に刺して身じろぎもせず、眺めてるのは、傘さし行き交う人々なのか、雨に煙る街路樹か、窓ガラス伝う雨雫か。
 その時、電話が鳴って出たらなんや指示を仰ぐような内容で適当なこと言うて切って、電話すな言うたやろ! ってイラッとして、煙草に火を付けた。
 聡実くんを見遣ると、まだ同じ姿勢でくうを見てた。

 どうしようもなく見蕩れてしまう。
 傘の露先から垂れる雨雫が、その姿に一瞬重なって落ちた後、聡実くんの口が「あいしてます」と動いた。
 その次の言葉は読み取れなかった。

「聡実くん」
「わ、びっくりした」
 聡実くんは慌てたように耳からイヤホンを抜いた。
 チラッとスマホの画面を盗み見る。流してた曲は、宇多田ヒカル真夏の通り雨」?
 曲名はしっかり把握した。「あいしてます」の曲は終わってて、もうこれ次の曲かも知れんけど。
「なに聴いてたん?」
 知らん振りして聞いてみた。
 何せ切なそうな顔して「あいしてます」や。気になってしょうがなかった。
「中三の時よく聴いた曲」
「……合唱用の曲?」
「ちゃいます。もう合唱曲とか聴きませんよ」
「ふーん、何か思い出がある曲?」
「思い出……なんかなあ?」
 聡実くんはガラスの向こうを見つめて言った。
「おしえてヨン」
「なんでそんなに知りたいんですか」
「気になるやん。聡実くん中三の時言うたら……俺が掻っ拐った後?」
「狂児さん、おらんなった後かな」
 口の端が、ふっと上がる。でも目は何か憂えてるような目やった。
 思わせぶりな表情をするなあ……きれいけど! 小悪魔か! って思ったのを覚えてる。
「ああ、不可抗力やったんや」
「捕まったんですよね?」
「うん、抗えない国家権力に」
「お巡りさんはちゃんと仕事してるだけや」
 もうちょっとこの曲について情報が欲しかったのに、離れてしまった。
「もうええでしょ? 何か食べます? カラ天行きます?」
「新作食べよかな? ゲロあまやけどめちゃ美味しいって誰か言うとってん」

 カラ天着いてすぐ聡実くんはトイレに立った。
 その隙に、サブスクで「真夏の通り雨」をダウンロードして聴いてみる。部屋のモニターの音が煩い。ボリューム絞ったろかって立ったら、聡実くん部屋に帰って来るしで、たぶん半分も聴けんかった。それでも、誰かを恋しく想う気持ちに溢れた歌やっていうのはよくわかった。
 心に染み入るような歌唱やった。

 五月のカラオケ大会に向けて、聡実くんからダメ出し受けたり、いつものカラ天コース。
 会話が途切れた時に、駄目元でお願いしてみた。
「歌ってくれへん?真夏の通り雨
 顔色がさっと変わった。この顔だけで充分やった。
「見たんやな? せやから、あんなしつこうに」
「うん、ごめん」
「別に、思い出いうても、狂児関係ないし」
「関係ないなら、歌うて欲しいな」
「いやや」
「さっきスマホに入れたんやけど、全部聴けてないねん」
「やったら、家に帰ってからでも聴きはったら? 関係ないし、なんぼでもどうぞ」
 あまりな拒絶にこっちもつい眉根に皺寄せてしまう。
 俺がちょっと睨むと、それだけで怖いらしいけど、聡実くんには通用せえへんらしい。
「自意識過剰やな。関係あらへん」
 関係ないって繰り返すのが怪しいねん。本人気づいてないけど。
 結局、機嫌を損ねてしまって、この日はぎこちなく別れた。

 家に帰って、シャワー浴びて、適当になんやかんや整えて、ベッドに倒れ込んだ。
 照明を落とした寝室で、スマホ最大ボリュームに上げて聴いてみる。えぐい歌唱力。聡実くんの声で聴きたかった……急いては事を仕損じるってやつやな。

 勝てぬ戦に息切らし

 ここは、聡実くん、後輩の子に重ねて聴いてたかも?
 合唱祭の前いよいよ声が出辛くなってたみたいやし。
 
 今あなたに聞きたいことがいっぱい
 溢れて 溢れて

「狂児さん、おらんなった後かな」言った時の顔と、
「狂児は今どこで何をしているのでしょうか。」の字面が俺を苛むように浮かんで消える。
 
 立ち尽くす 見送り人の影 

「もうとっくに死にはったのかと……」
 空港で言われたあれは、あながち冗談ではなかったんかも。
 俺は本当に死んだと思われてたんか? まあ、無理もない。

 愛してます 尚も深く

 街路樹の影から眺めていた、君を。
 合唱コンクールで歌ってた時のような大きな口ではなかったけど、歌うように「あいしてます」と動いた。
 それに続くのは、「尚も深く」だった。

 今聴いているこの曲を三回目に数えていいのか?

 君からの告白を数えて、
 見逃し三振に打ち取られて立ち竦むばかり。

 しかし、分かっていることが唯一つ。
 君から「さよなら」を告げられたら、追い縋ってはいけない。

 

 

 

 

 

 

愛の話

大学時代の友人岡と、来なくても良いのにくっついて来た俺の同期とで飲み、深夜になってしまった。明日も仕事だって言うのに。

 ――やっとここまで来た。
 覚束ない足取りの岡を肩に縋らせてこの瀟洒なドアまで辿り着いた。インターホンを鳴らすと、程なくドアが開き、現れたのは彼の旦那さんだった。
「こッ、んばんは! 夜分すみません!」
「こんばんは」
 俺と岡よりずっと年上で、あれから数年経つけれど相変わらずハンサムだ。長袖Tシャツとスウェットパンツに無造作ヘアーという緩い装いながら、際立つハンサムだ。ほぼ同年齢の俺の親父とは月とスッポンと言える。高校や大学や職場で終ぞ見かけて来なかった類のハンサムなのだ。
 日付も変わって小一時間、就寝していてもおかしくない時刻だけれど、起きていたらしい。
「織田くんやったかな? ありがとう」
 落ち着いた低い声も変わらない。

「きょぉじ~」
 夫の顔を見て安心したのか、すぐ横からご機嫌な声。俺の所為でもあるのだが、岡はかなり出来上がっている。有り難いことに、玄関の壁際にはダイニングチェアが一脚用意してあり、酔っ払いを座らせるのにお誂え向きだった。
「座らせたってくれる?」
「はいッ」
 肩に回った腕を外すと、早速、預けどころを失った体がぐらつく。
「おっ」
 すかさず成田さんが抱き止め、事なきを得た。
「雨降って来た?」
 俺も岡も少し濡れていて、雨の匂いをさせている。アルコール混じりだけれど。
「はい、ついさっき」
「よぅさん飲んだんやなぁ、どこで飲んでたん?」
「梅田の◯◯ビルの、」
「ああ、あっこか。迎えに行ったるのに」
 酔っ払いを一先ず座らせ、一安心だ。額を伝う汗を拭いたくハンカチを引っ張り出そうとして、岡のジャケットを抱えていることに気がついた。先ほど、タクシーの後部座席で岡が「あっつい」と言いながら脱いだジャケットだ――
 岡よりはかなりましなだけで、俺とて酔っていないことはないのだ。タクシーの車窓から深夜の大阪の街を眺めながら、マンションのロビーにはソファがあるだろうから、成田さんに降りてきてもらい、そこで酔っ払いを引き渡すようになるだろうと目論んでいた。しかし、そう首尾よく運ばなかった。先ず、眠ってしまった岡を叩き起こしてタクシーから降ろすのに苦労した。そして、肩に掴まらせて歩いたマンションのエントランスまでが遠かった。たった十メートル程なのに。追い討ちをかけるように雨まで降ってきた。もう二分待ってくれたら濡れずに済んだのに。
 エントランスに辿り着いたら辿り着いたで、華奢な集合玄関機のスタンドを前にして、岡は、解錠するのかと思いきや、部屋番号を押し「きょうじ、開けて」と宣った。俺的には「迎えに来て」とか「下まで降りて来て」と言って欲しかったが、まあ、しょうがない。しかし、この後は頂けなかった。
 岡は、成田さんの「大丈夫? 下まで迎えにいこか?」との有り難い気遣いに「織田が連れってってくれんねん」と何だか嬉しそうに俺の顔を覗き込み、よろけた挙げ句、集合玄関機のスタンドにつんのめった。俺の顔面など捨て置けば良いものを、見ようとしたからバランスを崩したらしい。仲良く倒れ込む訳にはいかない、この複雑そうな機械を壊してなるものかと慌てて足を踏んばったら足首を捻るわ、彼の夫の顔が頭を過るわで冷や汗ものだった。何せヤクザを生業としておられるので、「修理費が百万円ほどかかんねんて、困ったわ~」などと思案顔で言われた日には冷や汗では済まないだろう。彼に限ってそんなことは言わないとは思うが。
 どうにか体勢を立て直したものの、お気楽な酔っ払いは、「な?」と愉快そうに念を押しながら俺の首にぶら下がるという有様だった。その酩酊した様子はモニターに映し出されていた筈だ。だから、玄関の椅子なのだろう。
 どうにか部屋番号を聞き出し、痛めた足首を庇いながらも、エレベーターに乗って上がり、ようやくだ。ようやく彼の夫が待つ部屋まで辿り着いた。
 セキュリティのしっかりした物件らしくエレベーターに到達するまでがまた分かりにくく大変だったので、椅子は本当に有り難く、俺が座りたいくらい。しかし、空かさず椅子が用意できているなんて、もしかしたら、岡が酩酊して帰宅するのは初めてではないのかもしれない。

 成田さんは岡が椅子から滑り落ちないように、その前に立った。
「水飲む?」
「みずはいらん」
 岡は、大股を開いて椅子の背凭れにぐんにゃり体を預け、俯き加減の頭は揺らいでいる。成田さんは落ち着いているけど心配そうだ。屈んで顔色を伺いながら手慣れた風に細い首のネクタイを緩めた。
「だいじょうぶかいな?」
 肩に手を置き、聞いている。
「だいじょうぶ」
「全然だいじょうぶそうやないけど?」
 成田さんは、すっと背を伸ばした。背の高さにも改めて感嘆する。
「だいじょうぶ」
 肩に置かれた大きな手に眠そうな頬を預け、岡は繰り返す。目のやり場に困る。

 成田さんの手の甲を堪能したらしい岡は、今度は、ゆらりと背を立て両腕を成田さんの体に回した。ますます目のやり場に困る。
「今日なにしてたん? きょうじ?」
 成田さんの腹に額をくっ付け、岡は俺が聞いたことがないような声で聞く。部屋の奥側に顔を向けているからその顔が見れないのが幸いかもしれない。
「ちょ、お客さんやから、聡実くん」
 成田さんはちょっと身を捩ったけれど、抱きつかれて満更でもないのか、岡のしたいようにさせている。俺はひょっとして透明人間になってしまったのだろうか?
「きょうじ」
「はい、狂児やで」
「…………ちゃうやろ、きょうじ」
「え?」
「さとみくんのきょうじやでって言わな。いつもみたいに」
 既に目のやり場に困っているのに、その上、耳のやり場にまで困窮する事態に陥った。
「聡実くん、ほんま、お客さんの前やから、」
 困惑していて気の毒だけれど、ニヤついてしまう。
「……おきゃく……さん?」
 岡はドアの方、つまりこちらにゆっくり顔を向けた。
「あ、織田」
 信じられないことに、いつからか俺の存在は本当に消されていたらしい。成田さんがいなかったら「あんまりだろ」と嘆きたいところだ。

「もう……こんななるまで飲んで」
 成田さんまでつと俺に顔を向けるから目が合った。玄関の照明は暗めの橙色でさほど明るくないのに、目力が強くて、頭の天辺がぞわっとする。蛇に睨まれた蛙の心境だ。
「すみません……アッ、あの、岡は、一応自分で飲んで、」
 声がひっくり返ってしまった。
「一応?」
「一緒に来た同期が、あの、研修で来たんですけど、」
「ああ、そう聞いたな」
 岡は三人で飲みに行くと連絡していたらしい。
「そいつが……服部言うんですけど、付いて来てしまって。大学の時の友人と会うから遠慮してくれ言ったんですけど、大阪で飲んだことないから行きたい連れて行け言うもので」
 俺は言い訳に始終する。
「テーブルにバカラデカンタあって、これ欲しいな持って帰りたいって服部がぶつぶつ言ってたのは聞いたんです……彼女にそのデカンタの画像送ってましたし」
 成田さんは既に何があったか察したらしい。口をややへの字に曲げ、しかし、目は丸く笑っていた。
「俺と岡が一緒に便所行った隙に、ざざーっと中身、ウィスキーですけど、三人のグラスに注いだんです」
デカンタやら、言うてくれたらなんぼでも持って来たるのに」
「すみません」
「謝らんでええがな。そんなもんの為にこの子こんなぐでんぐでんになってしもたんかいな」
 避難がましい口調ではない。呆れている風。
「僕も後から気がついたんです。ソーダで割ってた筈なのに、ロックみたいに濃くなってて」
「ウィスキーをロックで」
「……はい」
「俺は下戸やからようわからんけど……まぁ、でも、知らん間にめちゃ濃いなっててんな? おっそろし」
 ――下戸?! ほんとですか?!

「きょおじ、織田はええヤツやねんぞ」
 成田さんの腹にべったり片頬をつけて大人しく聞いていた岡が、急に上を振り仰ぎ、俺を弁護してくれた。
「わかってるよ」
 柔らかい声。慈しむような目をして、岡の頭を撫でている。
「きょうじと付き合ってるって知っても、引かへんかってんから」
「うんうん、知ってる。その節はどうも」
 成田さんはまた俺に顔を向けた。話が長くなるので割愛するけれど、数年前のこの人の誕生日に、あろうことか誕生日に、俺と友人はこの二人に無礼を働いたのだ。
「いえ、ほんとその節はお世話になりました」
「あの子元気?」
「ええ、」
「ふぁ……おちゃ、出したげて」
 あくびしながらの眠そうな声に遮られた。
「うん、お茶な。君を先に寝かしてからな? 水も飲まな」
「いえ! すぐお暇《いとま》しますんで! おかまいなく!」
「織田くん、悪いけど、靴脱がしたって」
 俺の渾身の暇《いとま》宣言は無視され、岡にしがみつかれているからだろう、成田さんは俺にその役目を振ってきた。
「あ、はいッ」
 俺はしゃがんで鼠のように岡の足元を這い回り靴を脱がした。
「ごめ~ん、織田」
 頭上から申し訳なさそうな岡の声が降る。いい靴履いてるなと思った通り、かなりのブランドものだった。俺は靴が好きだから知ってる。知る人ぞ知るというブランドだ。成田さんからのプレゼントだろうか? そう言えば、岡のジャケットは、腕に折り下げていたのを忘れていたほど軽く、生地も滑らかだ。
「ベッド連れてったるから、もう、ねん……ちゃう、寝なさい」
 たぶん、『ねんねしなさい』と言いかけたと思う。〝さとみくんのきょうじやで〟と普段言っているらしいし、先ほどから顔に似合わない可愛さを露呈しているこの人は、岡といる時はいつもこうなのだろうか?

「もう……かなわんな、ジジイやのに、」
 成田さんは岡の腕を剥がし、背を向け、跪いた。おんぶして寝室に運ぶらしい。
「ちゃう、きょうじはジジイちゃう、」
 広い背中に視線を落とし、岡はゆるゆる頭を振る。
「腰いわさすやん……責任とってや、聡実くん」
「とるよ、とります、」
「はい、おぶさって」
 長い腕を後ろに伸ばした。さながらお姫様を救出する騎士のように見えた。
「とらいでか」
 岡は語気を強め憮然と言い放った。
 ――なんだ? この三段活用みたいなの? トルヨトリマストライデカ……Tryデカ……Try刑事?……あ、とらないワケないだろう的な?
「ぼくを見くびったらあかん」
『責任とってや』というのは軽口を叩いただけだろう。しかし、岡は聞き捨てならなかったみたいだ。
「うん、わかってるから」
 穏やかな声で、伸ばした手の掌で岡の足を軽く叩いた。早くおぶされと言いたいらしい。
「ほんまにわかってるか?」
「わかってる」
「きょうじがじーさんになっても、ほんまのほんまのじーさんになっても、」
 成田さんは一瞬ぎゅっと目を瞑り、口を引き結んだ。背に落ち続ける言葉に堪えるように。
「ぼくはいっしょにおるねん……おりたいねん……せやから、」
「聡実くん、お客さん待たしてるから」
 噛み締めるように呟いた。
「きょうじこそ、また、だまっておらんようなったら、」
 過去に二人の間に何があったのか詳しくは知らないけれど、以前聞いた〝逢えなかった三年半〟のことを言っているのだと思う。
「ぼくは、承知せぇへん……許さへんからな!」
 岡は声を震わせ言い放ち、右の足裏をどっかり広い背中に乗せ上げた。ヤクザを足蹴にする男、岡聡実。
 そうして、泣きそうに顔を歪めてようやく抱きつくようにおぶさった。酔っ払いはとにかく重力や体の預け方に配慮しないので、反動で成田さんまでぐらつくけれど、流石に倒れたりはしない。そして、泣きそうと言えば、成田さんもまた涙を堪えているように見えた。

「よいしょ、っと」
 成田さんは岡を背負って立ち上がった。
「織田くん待たせて悪かったな。上がってください」
「あ、あの……」
 奥へ向けて歩く背に、遠慮させていただく旨を伝えようとした。
「きょうじ……え? どしたん?」
 岡の声に遮られた。伸び上がるようにして成田さんの顔を覗き込んでいる。
「涙出てるやん……拭いたるな?」
 ワイシャツの袖でゴシゴシ拭いてあげている。他人に涙を見られたくなくて急ぎ背を向けたのに、気の毒だ。同じ男として同情する。
「……もう、かなわんな」
 成田さんの声は震え気味だ。しかし、酔っ払いは無情にも追い討ちをかけるのだった。

「♪なんにもいらない」
 陽気になり時に怒りっぽくなり歌まで飛び出す忙しい酔っ払いだ。
「あっ」
 この歌に思い当たる節があるらしい、成田さんは焦ったような声を出す。
「♪あなたと二人、生きてゆくのよ~」
 酔っていても外れない音程。歌声もきれいだ。中学で合唱部部長を張っていただけある。
「聡実くん、ちょッ、やめなさい、またおっさんを泣かそうしてるやろ」
 酔っ払いを悪戯に刺激しないように、ジジイを自称するのは止めたらしい。それにしても〝また〟ということは過去にこの歌で泣かされたことがあると解釈して良いのだろうか?
「♪あたしの願いは……なんやったっけ?」
「♪ただそれだけよ」
 俺は二人の背後から助け船を出した。岡はまた俺の存在なんて忘れてるだろうけど。
「織田くん、古い歌知ってんねんな」
 成田さんは俺を振り返った。目の周りが赤いのは、岡に雑に拭かれたからというのもあるだろう。
「♪ただそれだけよ~あなたとふた~り~~~」
 岡は無邪気にまた歌う。
「祖母の持ち歌なもんで」
「へぇ……おばあちゃんの」
「きょうじ、スイッチ出して」
「え~、カラオケ? 今から? 織田くんもいっしょに?」
 覗き込む岡と振り返る成田さんの顔が近くてドキッとする。それにしてもお熱い二人だ。
「うん、織田もいっしょに」
 宙に浮いた足をぷらぷら降りながら、事も無げに言うけど、出社まであと七時間を切っている。
「二人とも明日も仕事やろ? 俺はええけど」
「ごめんなさい、あの、帰ります。服部もちょっとヤバいんで」
 俺は嘘をついた。服部は今頃ホテルで風呂にでも浸かっているだろう。くすねたデカンタを肴に彼女に長電話でもしながら。かなりの酒豪、言わばザルなのだ。
「ええ~、帰るん?」
「お茶ぐらい飲んでってよ、タクシー代織田くんが払たんやろ? 返さな」
「いいです! それは! いいです!」
 二人して引き止めてくれるけど、そろそろ邪魔者は消えようと思う。
「せや、織田くん、泊まってったら?」
「えっ」
「着替え聡実くんのがあるし……会社どこ? 明日送ってったるわ」
 成田さんの有り難い提案に、ごっつい黒塗りの車に乗れちゃったりなんかして? と一瞬傾きかけるけど、新婚の家に泊まるなんて野暮なことはしたくない。

「ジャケット、ここかけときますね!」
 岡のジャケットを椅子の背にかけた。タグは敢えて見ないようにした。金があってもなくてもこの二人はずっと仲睦まじくやっていくのだろう。
「ちょ、待ってって!」
 ドアの隙間から引き止める声が聞こえたけれど、構わず閉めた。

 エントランスの自動ドアを出ると、小雨が降っていた。湿った深夜の空気に纏わりつかれ、傘はなく、しばし途方に暮れる。
 植え込みの灯が雨に烟っている。道を挟んで向こう側に並ぶ街灯もぼんやりと丸く細かい雨を切り取っている。とても静か。
 ――♪こぬか雨降る御堂筋~ってか?
 またも祖母の持ち歌だが、この通りは御堂筋ではない。生まれてこの方ずっと東京住みの俺でもそれぐらいは分かる。
 目の前の道を時折車が走り抜ける。タイヤが水を巻き込む音が近づいては遠ざかり、ヘッドライトやテールランプの灯りが濡れたアスファルトに落ちては滲み、消えていく。
 ――♪雨の舗道は、さみしく光る~ってか?
  
 いつまでもマンションの下で雨宿りしながら黄昏ている訳にもいかないだろう。
 タクシーが拾えそうな通りまで歩くか? それとも呼ぶか? どちらにしても住所がわからない。
 ――さて、ここは何区の何町だったかな?
 マップで現在地の確認をとスマートフォンを取り出したら、画面には、服部からのライン通知があった。もう寝るとか送って来やがって、誰の所為で見知らぬ土地で右往左往してると思ってんだ、タクシー代ぶんどってやると少し殺意が湧いた。
 ――……まあ、でも、岡と成田さんの幸せそうな生活が見れたしな……良しとしてやるか。しかし、めっちゃ当てられたよな。
 今度会った時さっきの目撃談を話したら岡はどんな顔するだろう?
 想像するとどうしようもなく顔が緩む。ラインの友人欄に岡の名前は普通に苗字で登録してあるけど、「さとみくん(きょうじさんの)」に変更してやろうかな? ほんとに変えてスクショ送ってやろうかな? などと思いつき、更に顔が緩む。「さとみくん(きょうじさんの)」に至った経緯を問われるだろう。そして、織田は見た! とばかりに俺は目撃したことをつらつら送る。岡は「嘘や! 絶対そんなこと言うてへんし!」と顔を真っ赤にして否定するに違いない。ラインではその顔がみれないから、今度会った時見せてみよう。
 ――いいなぁ……うらやましいぜ……俺の恋人になる人はいったいどこにいるんだよ?
   ♪あなた~あなたはどこよ~……だよ、まったく。

 雨は降り続けるのかと思いきや、霧のように細かくなっていった。マップを頼りに歩きますかと歩道に降りかけたら、背後の自動ドアが開く音がした。
 ――ん?
「織田くん、待って!」
 振り向くと、さっき別れたばかりの岡の旦那さんだ。

 びっくりして突っ立っていると、走り寄るその手には折り畳み傘。
「あっ、すみません、でも、もうそんなに降ってないです」
 成田さんはつと車道に顔を向けた。俳優みたいな横顔。
「ほんまや。傘はいらんかったか。でも、これは返さな」
 スウェットのポケットから万札を差し出された。
「タクシー代」
 チラッとその手元に視線を落とすと渋沢栄一が数名。
「こんなに貰えません!」
 俺は固辞する姿勢を崩さない。
 ――逃げ切れたと思ったのに~
「もー……俺が聡実くんに叱られるやん……」
 面白いくらい眉尻が下がった。俺も困ってるけど、この人もこの人なりに困っている。ヤクザの夫を尻に敷く男、岡聡実。
「ええやん、もらっときって」
「えー」
「俺の弟ら、あ、舎弟やけど、頂戴いたします! って素直に受け取るで?」
「いやいやいや、多過ぎますって」
「俺かて引っ込みつけへんやん」
「そう言われましても」
 堂々巡りだ、どうすればいいのだ僕は、と思っていたら、成田さんは折り畳み傘のカバーを外して、それを左手の中にぐしゃっと握り込み、万札も同じく右手に握り込んだ。そうして、その両の拳を背中の後ろに回して隠し、含みのある目をして片笑んだ。シャッフルしているらしい。
 こういう遊びをしたのはいつぶりだろう。ちょっと楽しい。
「どーっちだ?」
 目の前に差し出された大きな握り拳二つ。一つは、傘。本体は成田さんが脇に挟んでいる。そして、もう一つは渋沢栄一
「えええ……」
 これを目の前にして逃げるのは憚られ、俺はしぶしぶ右を指した。
「織田くん、ええの?」
「いいです」
 ぱっと開かれた掌にはくしゃくしゃの傘のカバー。
 ――良かった。
 ほっとして成田さんを見ると、悪戯っ子みたいにニッと笑った。
「ラッキーやね」
 傘を渡されるのかと思いきや、成田さんはカバーに万札を落とし込み、傘本体をねじ込んだ。
「えッ、ちょッ!」
「はい!」
 傘を渡される。
「まだ降るかもしれへんし。送ってあげたいけどなぁ、聡実くんがあんなんやし。堪忍な」
 邪気の無さそうな顔でにこっと微笑んだ。
 ――なにこの人。

 俺は結局、傘と万札を握らされることとなった。
 有無を言わさぬ声と顔の圧力に屈したのだ――

 

 

 

 

 6.2022

潮の扉

 

二月に入り、試験が終わったと狂児にラインしたら、旅行に誘われた。一泊二日の旅にと。デートらしきことは何度かしたことがある。買い物とかご飯を食べに行くとか。カラオケも含めるのなら、もう何度も。ご飯→カラオケ→ホテルはもうセットになっているし。しかし旅行に誘われるのは初めてで、トーク画面の「旅行」の字面を見続けた。
ラインも良いけど、声が聞きたい。けれど、仕事の合間らしくこのままラインでと返ってきた。

たった一泊されど一泊。狂児はシノギが順調で忙しく、自分はと言えば東京の大学に在籍する学生で、長い休みの日々もバイトのシフトにきっちり組み込まれている。二人で日程をすり合わせ、この二日間ならどうにかなりそうと、三月初めと日付けを決め、出掛けましょうということになった。
夜遅い時刻、部屋は静かで、時折アパートの前を通り過ぎる車の音がするだけ。
肝心の行先を聞いてなかったと気づき、文字を打つ。狂児と一緒ならどこでもいいと思いながら。そんな自分が面映い。
        「どこ行くんです?」
尾道はどうですか?」
「知ってる?」
        「聞いたことあります。
         行ったことはない」
「海の近くの旅館とる」
        「いいですね」
ラインを終え、マップを開いて確認してみる。
――ここか……だいぶと西に行くんやな……
  車で行く言うてたけど、四時間弱ぐらい掛かんねや……

そうして、三月頭、狂児と小旅行に出掛けた。
両親には『帰って来た思たらどっか行きよる』と零された。

朝、待ち合わせ場所の公園入り口に黒いレ◯サスが停まっている。
――これか。レンタカー。
運転席を伺うと、やはり狂児だった。思案顔でスマートフォンに指を走らせていた。
コツコツと窓をノック。入っておいでと指で合図され助手席に乗り込んだ。
「おはよう」
「おはようございます」
「レ○サスなんや」
「あの車目立つからな。これから行くとこ、○道会のシマやから、ちょっとな」
「そうなんや」
「セン◯ュリーが良かった?」
「どっちでもいいです」
――狂児と一緒なら。
「朝ごはん食うた?」
狂児はシフトレバーをドライブに入れ、サイドブレーキを解除した。
「いえ」
「どっかで食べよっか」
ウィンカーを出し、緩やかにアクセルを踏む。
「オートマやから、聡実くんも運転できるで?」
「僕、マニュアルで取ったんですよ?」
「え?そうやった?」
「オートマ限定やめとき言うたん、狂児さんやん」
忘れたのかと、口をへの字に曲げてしまう。
「ごめんて」
手が伸びて来て、頬をするっと撫でられる。指は冷たかった。
「どうする?練習がてらどっかのSAで替わってみる?」
「高速か……死にたいですか?」
免許は取りたてで運転にはまだ自信を持てないでいた。
「いやぁ、せっかく聡実くんとおれるのに、まだ死にとぅないな」
狂児はふふと笑う。何かが始まる浮き足立つような気持ち。たぶん僕と一緒。

髪を固めてないスタイルには、この頃ではもう大分慣れて、寧ろ、固めて現れたら違和感を覚えるまでになった。
予報では冷え込むとの事だったからか、後部座席には、薄手の濃いシルバーグレーのダウンジャケット。よく似合うだろう。普通の旅行者に見えるように、僕が普段着てるようなものに合わせたのだと思う。
「見つかっても、知らんふりしてくれる思うで?」
「え?誰に?」
ダウンを着て立った姿を想像していて、話聞いてなかった。
「地元のヤクザに」
正直、狂児が身を置く世界のことはわからない。どっちが立場が上とか誰の紹介とか誰の顔を立てるとか誰の顔を潰したとか、色々。
「ひょっとして、祭の若頭補佐がなんの用で来てん?ワレェ、って絡まれるんですか?街中で?こわ」
「聡実くん、大阪ちゃうからな、そこは、なんの用で来よんなら?ワレェ、やな」
「知らんし。広島弁も出来るんや。ヤクザ繋がり?」
「若い時部屋住みしてて、転がっててん、実録!〇〇組!とかいう雑誌な。暇な時読んでたら、身についてしもたな」
「どんな技術や」
「福岡弁もできるで?なんの用で来よーとか?きッさん、ぼてくりこかしちゃーけん!やな?」
「なんかようわからんの、増えとるし……ほんまに絡まれたりせぇへん?」
「そこは、プライベートな旅行やろってスルーしてくれる思うけど?」
「やったら、ええやないですか」
「親子で遊びに来ましてん、って言おか」
ちらっと投げられる視線。口の端は楽しそうに上がっていて。
「親子やないです」
狂児の太腿に手を這わせ横顔を伺う。平易な道を直進とはいえ運転中。狂児はふっと微笑んだ。這わせた手に大きな手が重なり、ぎゅっと握られた。伝わったと思う。

途中、SAで軽く朝食を取り、高速をひた走りバイパスに降り、更に一般道に降りる頃には昼近くになった。
「聡実くん、昼飯どうする?ラーメン美味しいねんて」
「うん、ラーメンええな」
マップアプリの計算通り、四時間弱で目的地に着いた。
駅前を抜け、海岸通りとやらに入る。
「海岸?それ、海?」
運転する狂児の向こう側に見える、満々と水をたたえているのは、海なのか?
「海やで」
「せっまいな」
「どこもかしこも狭いねん、ここ」
歴史ある街で道幅は広くない。その上、海まで小ぢんまりしている。
「もう、ここ停めたろ」
狂児はコインパーキングに車を停めた。街を散策するらしい。
車を降りると、微かに潮の匂いがして、心が浮き立つ。見上げれば、春の始めの空に海鳥なんだろうか、鳥が飛んでいた。引き寄せられるように海の方へ、冬枯れの芝生を突っ切ると、広々としゃれたウッドデッキに到達した。
「ほんまに海ですか?」
目の前の海は、海らしくなくて。
「ほんまやって、あれは島なんや」
〝あれ〟と見遣る先には、パノラマで間近に迫る陸地。泳ぎが達者な人なら難なく泳いで渡っていけそうな距離に。
「あれは?工場?」
巨大なクレーンが何台か稼働中。
「造船所や。橋はあるんやで?こっからずっと東に、ほら、車も走れる」
狂児が指さす方向に、青い橋が見えた。

「お腹すいたよな?」
「うん」
デッキを後にし、歩道を並んで歩く。観光客が多く、よくすれ違う。
目指して来たラーメン屋は有名店らしく行列ができていて、仕方なく列に並んだ。
「狂児さん、並んだりするんや」
「するで?」
「ええ子にして並ぶんや」
見上げて、その似合わなさに笑みが漏れる。
「なに?聡実くん?俺が列に並んでたらそんなおかしい?」
少しうれしそうな口元から低い声で囁かれた。
「見たことないなって」
ああ、こういう事なのか?と思い出す。大学の友人達と話してて、誰かが彼女と旅行したけどなんか思ってたんと違うなって場面がよくあったとか話していた。良きにつけ悪しきにつけ、色々な気づきがあるのだろう。恋人と旅行したりすると。
やっと有り付いたラーメンは、醤油味だと聞いていたからコッテリ加減に裏切られたけど、美味しくて、あっと言う間に平らげた。一緒に注文した炒飯も。

有名な古い、なんでも九世紀に建立されたと言われる、由緒あるお寺に行ってみようとなり、山登りをすることになった。頂上付近にあるその寺は、大きな公園に隣接していて、桜の名所だと言う。
狂児が山登りなどと言うので、正直『めんど』と思ったけど、山と言っても低く、舗装された坂道を登るので、特別な装備はいらないらしい。しかし、海岸側から少し北へ歩き国道を横切り、JRの下を潜って出ると、もう容赦のない石段と坂道だった。その上、道幅が狭くて、入り組んでいる。
「迷路みたいや」
「せやな」
こっちは違うやろ、あらここさっき通ったんとちゃう?なんてことを言いながら登って行く。狂児はマップアプリに頼ろうとしたけど、僕はプチ迷子状態を楽しんでいたし、時々こっそり手を繋いだり腕を組んだりの普段街中で出来ないことに心騒めかせていた。だから、「そんなん見んでもええやろ」と強気な風を装い、スマートフォンを仕舞わせた。
軒を連ねる民家の中にひょっこり小さな喫茶店や寺が顔を出すのが意外で楽しい。楽しいと言えば、噂に聞いていたけど、猫が多い。角を曲がる度に猫に遭遇すると言っても言い過ぎではないかも。とことこ走っていたり、のんびり歩いていたり、毛繕いをしていたり、ひなたぼっこをしていたり。観光客には慣れているのだろう、彼らは彼らの時間を思い思いに過ごしていた。

やっと民家ゾーンを抜け、整備された公園に辿り着いた。公園は広く、レストランや美術館もあり、後で寄ってみる?と相談しながら歩く。
「もうちょっとしたら、花見客でいっぱいなんで、ここ」
「ふーん……人少ないほうがええから、よかったわ」
花見は花見でまたどっか行こうかなどと話しながら散策する。
歩道から大きな岩が迫り出していて、他の観光客が退けた頃合いを見計らって足を運んだ。岩の上からの眺めは絶景で、歴史や謂れを説明した立て札まで設けてあるのも頷ける。
遠く南に見える島々は、手前は濃く、距離が増すごとに薄く淡くぼやけて、山水画のようだった。眼下には箱庭みたいな街が広がり、風は冷たいけれど、とても気持ちが良い。車を停めた辺りも造船所を眺めていた辺りも右手の下に小さく見えて、狭いと感じた海は本当に狭くて、そこを船が行き交っていて、一つの大きな絵を見ているみたいだった。
「こんな大きな岩、運び上げたんやないですよね?」
「もうずーーっとここにあるんやろな」
「どれくらい前から?」
「そら、恐竜がそこら辺歩いてた頃からやろ」
狂児の話は時々突拍子もなくて可笑しくなることもあるけど、これはきっと、当たらずとも遠からじといったところと思う。なぜなら僕は一瞬、悠々と翼を広げるプテラノドンを空に見た気がしたから。大きな翼竜の背に乗れたなら、この景色を余すところなく見れたかも?その頃は民家も寺も線路も道もないけれど。
そう言えば旅行に来たのに写真を撮ってないと気づき、スマートフォンを取り出し景色を収めた。僕を見ていた狂児が「パノラマで撮ったら?」言うので、操作してみたら、上手く撮れた。陽光に照らされた細長い海と迫り来る島がきれいに撮れてうれしくて「どう?」と狂児に見せた。
「ええやん」
狂児も楽しそう。初めての旅行で、初めて使う機能。これからも使っていきたい。

寺からの眺めも良く、天気が良くて良かったと同時に口に出して笑ったり。
そろそろお腹が空いたので、さっきのレストランに行ってみようかと階段を降り掛けて、御神籤が目に止まった。
百円出して、引いてみた。
「大吉やて『天の高みに登るような大出世』……へえ」
狂児は特に何を思うでもない風に呟いた。修学旅行先で御神籤引いた時は皆でわいわい恋愛欄や学業欄で盛り上がったり下がったりしたけど、大人は御神籤ごときで一喜一憂はしないのだろう。
「ええやん、大吉」
言いながら、自分も開けてみた。
「なんやった?」
狂児が覗き込んできた。
「凶や……」
「うわ、はよ結んで、忘れ」
「うん」
僕も特に感想はない。おみくじの文言はわかりにくいな、何世紀も前から変わってないのでは?そこが良いのか?という印象。
狂児を伺うと『凶』に続いた文言『家庭に不和が起こる予兆』が目に入ったのか、一瞬眉をひそめた……ような気がした。自分の『大吉』にはさして何の反応も示さなかったのに。

レストランでは、運良く窓際の席に案内してもらえた。紅茶を飲みながら、きれいに盛り付けられたフルーツとワッフルを頂き、満足した。
狂児はどこか取り澄ましたように口数が少なく、頬杖をつき、暮れゆく窓の外の景色を眺めている姿は様になっていて、紅茶を運んできた女性がちらちら見るのがよくわかるような、あまり見て欲しくないような。
「疲れました?」
「いや?別に?」
「たくさん歩いたし、めちゃ坂やったし」
「おっさんにはちときつかったけど、大丈夫やで?」
「やったら、ええけど」
「帰りはロープウェイ乗る?」
「うん」
気になっていたロープウェイに乗れたけど、瞬く間に麓に着いた。ほんとにあっという間で、はやっ!って言ってしまったほど。その短い時間で、小さな紙片を撒き散らした様だった家々の屋根が徐々に実際の大きさに近づいてゆき、下界に降り行くような気分が味わえたのは、楽しかったけれど。

ロープウェイを降りた後、車を停めた駅近くのパーキングまで商店街を歩いた。商店街には意外と若い人も楽しめそうな店が多かった。かと思えば、古めかしい店もたくさん。シャッターが閉まったままのお店も散見される。
「観光客多いですね」
「せやな、此処は、こう、郷愁を掻き立てられると言うか……聡実くんはわからんか」
「ようわからへん」
「身も蓋もない返事やな。せやな、組長ぐらいの歳にならんとわからんかも」
「でも、僕ぐらいの人も来てる……郷愁とかはいまいちわからんけど、かわいらしい街やと思う」

車に乗り込む前に、再び駅前のウッドデッキに寄った。
小さな船が行交う川みたいな海を夕日が染めて、周りを見ると、同じように海を眺めながらカップルが肩寄せ合ったりしていた。
「そろそろ旅館行く?」
「うん。ご飯何やろ?」
「和食やで。此処は魚が美味しいとこやから」
まるで、君がご飯を気にするのは想定内やでって言いたそうな顔。
「楽しみや」
期待には期待で応えた。

日が長くなったとは言え、旅館に着く頃にはとっぷり暮れていた。
旅館は、海の傍に新しくできた建物で、駅前から東へ車で十分ほど走ったら到着という利便性の良さ。小ぢんまりしていて、歩くのを厭わなければ楽しめる街という印象。狂児も「車で移動はおすすめできんな。パーキングが少ない」と言っていた。
狂児が東京で時々僕を連れて行く料亭は、大抵が襖で隔てられたお座敷で、他の客の目が気にならない店。ここでも、通されたのは離れだった。案内されながら歩く渡り廊下に面して中庭があり、池には照明に照らされ、鯉が泳いでいた。
優雅に水の中を揺蕩い、時々、浮き上がる。餌が貰えると思ったのか、何匹か口を開けながら池の淵に寄ってきた。見れば、白い地に少し暗めのピンクがかった赤が浮く鯉がいた。
「きれい、ほら」
狂児に指差し伝えると、「ほんまや、苺みたいな色」と呟き、耳に口を寄せてきて「聡実くんみたい」と言った。恥ずかしいことを言うなや聞こえたらどうすんねん、と案内係の女性を気にしながら狂児の腿を手の甲で叩いた。
「蘇芳言います」
前を歩く案内係の人は立ち止まった。名札には『藤本』とあり、鯉の名前をおしえてくれた。
「名前ついてるんですか?」
狂児が聞くと、「ええ、大きい子には」と鈴を転がすような声。
「あの子は?」狂児はオレンジやピンクや黄色が混ざったような複雑な色をした鯉を指差した。
「東雲言います」
「へえ、風流な名前がついてるんですねえ」と狂児は感心したように言い、「あの金ピカの子は?あのオレンジのは?」と次々聞いていった。藤本さんはその度ににこやかに、「黄金です、柿です」などと律儀に答えた。
一際大きく立派な、赤がくっきりと綺麗な鯉が寄ってきた。
「こらまた、ビビッドな赤で」
「その子の本名は、赤さんです」
「本名……て言うことは、別名があるんですか?」
「大きくて赤いから、従業員がそれぞれ贔屓の○ープの選手の名前つけて、願掛けしてますねぇ」
「鯉だけに!へぇ、今日は打てよ!とか?」
「そうですねぇ」
「打たれんなよ!とか?」
狂児は先ほどから感心しきりな風で、傍で見ていて飽きない。
「聞いた?聡実くん?黄色と黒の模様のがおったら、打たれてしまえ!とか言われてんねんやろな?」
「うん、鯉に罪はないのにな」
「おりますか?」狂児が聞くと、「いえ、おりません」と彼女は笑顔で答えた。

赤さんよりも更に大きな鯉が悠々と泳いでるのが気になって、僕も聞いてみた。
「あの黒いのは?」
「あの子は黒さんです」
「黒さんやて、狂児さんみたいや」
甘えたように下の名前で呼んで、しまったと思った。もうここでは、親子に偽装したくても無理になった。親子じゃないと拗ねた僕だけど、こんな場面では息子を装うべきだったのに。
凹む僕の背中を、狂児はぽんぽんと優しく叩き、藤本さんは気づかなかったふりをしてくれた。

「気にしなや?」
客室に入るや狂児は慰めるように言った。
「うん」
近頃ではLGBTの潮流に乗り、僕たちのような付き合いも、以前よりあれこれ言われることが少なくなったと感じていた。
でも、未だ頑なな人達が多いのは事実で、トラブルや探る様な目を避けるための嘘や偽装が致し方ない場面にも時々直面していた。
「ごはん食べに行こか」
ジャケットをハンガーに掛けながら狂児は僕の様子を伺う。
「僕、気にしてへんよ?歳の離れた友達って言う手もあるやん」
「せやな……聡実くん、」
「ん?」
「俺は、どーでもええねんで?他人からどう思われようと」
「うん……わかった」
「せやからな、言いや?なんか言う奴おったら」
「シバき倒すんやろ?」
「はは、平和的にお話させてもらうだけやけど?」
「狂児さんが言うたら洒落に聞こえへんやろ」

客室は僕の予想に反して洋室だった。和風に設らえられた洋室だったけれど。
離れな所為か広く、大きなベッドが二つ並んでいて、奥の窓辺には丸い小さなテーブルを挟んでソファが二つ。
「昔からあるふっるい旅館はもう予約でいっぱいやってん。そこ窓の外すぐ海で、取りたかってんけどな。
 そこやったら、食事も部屋に運んで貰えたんやけど」
「どこでもええです」
――狂児といっしょならどこでもいい。
「ここ、ええやないですか。鯉きれいやったし」
本心は言えずに、鯉が綺麗などと言ってしまう。

狂児は少し気にしていたけれど、僕は客室も食堂での食事もとても気に入った。他にも客はいたけど、大きな声の人はいなかったし、照明は抑え気味で雰囲気があって、小さく音楽がかかってて。
肝心の料理は、ちょっと見ると、東京の料亭と変わらない印象。しかし、一品一品給仕される小鉢、腕もの、刺身、焼き魚、ほぼ全てに地の魚介が使われていて、青魚や赤身の魚はなかった。
給仕係の人が、「お刺身です。今朝上がったオコゼです」と、皿を置き下がっていった。
「オコゼ?」
「はじめて?」
「うん。ものすごい顔や」
お頭付きだけど、お頭を付ける意味がわからないと言いたくなる、醜い顔の魚だった。釣り上げられて俎上に載せられ料理され、挙句、醜いと言われて可哀想とは思うけど。
「誰かに似てんねんな」
「組の人?」
せやねん
思い出せそうなのに、今一つ思い出せないらしい。
「誰やった?」
目を瞑って記憶を手繰り寄せていて、可笑しい。
「僕が知ってるわけないやないですか」
「ほんまや。美味しいで?食べてみ?」
口に運んでみると、なるほど、今まで食べたどの刺身より美味しかった。噛むとふわっと甘みがある。
「聡実くん、飲まんでほんまにええの?」
「んー……ちょっと飲んでみよかな?」
狂児が係の人に相談すると、刺身に合いそうな日本酒を見繕ってくれて、一杯のグラスを当然のように狂児の前に置いた。苦笑いしながら置き替えるのはしょっちゅうだった。狂児は下戸だけど、僕は飲める体質らしい。でもまだ来月でやっと二十一歳だから、自分の量っていうのがよくわからない。
お酒と一緒に刺身を頂くと、旨味が増すみたいで、相乗効果がすごくて、アテにこだわる酒飲みが多いのがよくわかるような気がした。わかると言っても僕なんてまだまだだけど。
〆は鯛めしという、米を一尾の鯛と一緒に炊き上げたものだった。
狂児は土鍋から茶碗によそってくれた。
「めちゃ美味しいんやけど、鯛」
最初からずっと美味しいしか言わない僕に、狂児は目を細める。
「気に入った?鯛?」
「うん」
「せやったら、明日、鯛そうめん食べに行く?」
「そうめん?って夏ちゃうの?」
「名物みたいやし、この時期もある思うけど。松山や」
「松山?」
「せや、四国」
「遠いんちゃう?」
「いや、高速で二時間ぐらい」
「ふーん……松山……」
デザートは苺のジェラートだった。美味しかったけど、上品に量が少なく、狂児は「おかわりできひんやろか?」などとこっそり耳打ちしてきて、僕を笑わせた。

客室に帰ってどちらからとも無く窓辺の椅子に座った。向き合っておしゃべりするうち、外の物音が聞こえないと気づいた。車道もそう遠くなかったのに。温かな落ち着いた色味の照明も好ましく、生活する上での雑音は悉く削がれた、ただ休息の為にある部屋だった。キッチンも洗濯機も課題の為に積み上げられた資料やテキストやパソコンもない。旅館の客室なのだから当たり前なのだけれど、とても落ち着く。
「静かですね」
「ごっつい防音になってんねやろ」
まるでこの世に二人っきりみたいだった。東京の喧騒から遠く離れて、狂児がよく泊まる彼の地のホテルとは趣が違っていて、和風の部屋はどこか浮世離れしていて。

「風呂入ろっか」
頷いて、一緒に風呂に入った。
部屋に続いた風呂だから気兼ねがなくて良いのだけど、窓が大きな掃き出し窓で、その上透明なガラスで戸惑う。
「丸見えなんやけど」
窓のすぐ外は木々が植わっていてその先は高い塀になっているから、覗かれることはないだろうけど、あまりに開放的。
「ええやん」
狂児は暗い橙色の照明の中、片笑んで僕に触ってきた。キスしながらあちらこちらを。
「こんなお風呂、なんか……こわい」
「ドローンでもない限り、覗かれへんて」
近づく顔はぼんやりと湯気の中で笑う。眼鏡がないと何もかもぼやける。
「ドローン……」
「飛んで来たら、撃ったるから」
「えっ?持ってきてんの?」
「まさか」
日本酒の所為なのかのぼせたのか、一番には狂児が触るから、頭がふわふわする。
狂児に抱えられるように風呂から出て、拭いて貰った。
「はい、浴衣」
渡され袖を通してみた。左右どちらを前に合わせるのかわからないし、帯をどう結ぶのかもわからない。
「どしたん?わからへんの?」
そう聞く狂児はさっさと手際良く浴衣を着て、見惚れてしまった。
「適当でええねん」
さっと前を合わせて、長い帯をぐるぐる巻かれる。
「めちゃ余るな、帯。細いから」
「どうせガリですぅ」
「ですぅって。酔うてんの?」
「そうかも」
「めちゃ鯛めし食うてたやんな?どこに入ったん?」
くすくす笑われながらまだ巻かれる。
「もう、パンツ履かんでええよな?」
まだ下着を履いてなかった。
「情緒がない。狂児は」
「はは、せやな。どうする?浴衣も着んとく?脱ぐ?」
帯をきゅっと結びながら言うことではないだろう。
「なさすぎる」
僕は情緒がないと言い募るのに、狂児は少し後退って、僕を頭の先から足の先まで眺めた。
「かわいいな、聡実くん」
ふふっと笑ったのを見たと思ったら、体が宙に浮いてた。
「う、わ」
横抱きに抱え上げられ、思わず首にしがみついた。
「おろして」
「聡実くん、ふらふらしてるんやもん」
「してへんわ」
「戸、開けて」
下ろす気はないらしい。狂児の両手は塞がっているので仕方なく引き戸を開けると、ベッドが目の前で生々しい。さっきまで裸で一緒に風呂に入っていたのに、なぜかそう感じる。
狂児はベッドに進み出て、何をするかと思えば、器用に足で掛け布団を引っ掛けて、跳ね上げ、僕をそっと毛布の上に寝かせた。
「ふーん……」
「なに?」
真上の顔は不思議そう。それもそうかも。僕は値踏みするような視線を投げたから。
「すごい慣れてはんねや」
敬語が出てしまう。それも少し嫌味を込めて。
「抱っこも、ふとん足でバッと上げるのも、」
「なに言うてるん。こんなんするん、初めてですぅ」
「なにが、ですぅ、や」
「聡実くんがはじめてですぅ」
「信じてあげますぅ」
二人してクスクス笑って、キスが降ってきた。
「あそこやったら、波の音聞こえて、ええやろな」
狂児は予約を取り損ねた旅館を口にするけど、僕はどうでも良かった。
寄せては返す波の音も良いだろうけど、僕は狂児の声が、低く囁く声が、早く聞きたくて、早く波のように体を揺らして欲しくて。


目が覚めたら、狂児はもう起きていて、縁側の椅子に座って煙草を燻らせていた。ベッドから顔は見えない。寝癖の頭の揉み上げと耳が見えるだけ。浴衣の上に丹前を着込んでるけど、組んだ素足が寒そう。
もっとよく見たくて、気づかれないようにサイドテーブルの眼鏡を探り、そーっと掛け、鼻まで布団を被り盗み見た。
――あの浴衣の下を知ってる。
酔いは醒めてるはずなのに、体がふわふわとして落ち着かない。
――背に息づく鶴を、知ってる。
       声がどんな風に心臓に響くか、知ってる。
  煙草を持つあの手がどんな風に僕に触るか、
  柔い唇を、
       僕の口の中、胸、背中、腿、足指、僕自身を、探るように蠢く舌を、知ってる。
  混ざり合った唾液を飲む喉仏の動き、
  薄く汗が滲む額、僕を見つめて、余裕なさげに揺らぐ黒い目を、   
  硬く張り詰めては僕を意のままに乱し、
  僕の中で果てる……
煙草を揉み消す袖口から〝聡実〟が覗いて、どきどきする。
――あの腕に縋り付いて、昨日、僕は……

狂児は急に、僕を振り返った。
「起きた?」
静かな朝。低い声がしんとした部屋の空気を震わせる。小さく頷いて、返した。狂児は僕が起きるのを待っていたらしい。起きて出掛ける支度をしなければ。
繭のような静かな部屋ともお別れだ。旅には終わりがあるのだから。
こんな部屋をどこかの街で見つけて暮らせたら。ふと目を瞑り夢を見る。ここでもいい。この街がいっそ打ち捨てられた場所ならいい。僕らを知らない人達と上辺だけで関わって暮らせて行けたらどんなにいいだろう。

「大丈夫?」
狂児の声が響き、目を開けた。
「……なにが?」
「体」
「うん、大丈夫」
「あら?聡実くん眼鏡いつかけたん?」
「さっき」
盗み見ていたなんて言える訳ない。片腕を彼に向けて、シーツの上にゆるく投げ出すと、弾んで、手の甲がバタッと重い音を立てた。
「どしたん?」
ここに来てとの合図は通じたらしい。狂児が傍らに腰掛けるとベッドがギシと音を立てた。
「甘えたさんやな」
煙草の匂いが近づく。
「おはよう」
頬にキスが降ってきて、胸が高鳴る。
「……おはよう」


身支度を整え、朝食を取るため食堂へ足を運んだ。テーブルの上には朝からこんなに食べられるかな?と思うような品数が並ぶ。食べるけど。
「今日、どうする?四国行ってみる?」
「松山?」
そう言えば昨日、鯛そうめんを食べに行く話をしていた。
「うん、帰りは淡路島通って帰る?」
「もう、ここは出るん?」
「これ、フロントにあった観光マップなんやけど、」
「うん?」
「見てみ、寺ばっかりや」
「ほんまや」
「寺は昨日行ったしな……どうする?」
どうする?と聞かれても、この辺りでどうしても行きたい場所は特に思い付かなかった。
出掛けに母から「あっこ行くんやったら……」と薦められた寺は二つあって、一つは昨日行った。もう一つの寺の名は忘れたし、覚えていたとしても、この寺だらけの地図から探し当てるのは難しい。
「じゃあ、行きます?四国?」
「あ、でも、お好み焼きは食べたいな。食べたことある?」
「ないです。混ぜて焼くんとちゃうんですよね?」
「薄くクレープみたいに生地広げてキャベツのせんねん」
「テレビで見たことある……食べてみたい」
「なら、昼に行こか……あ、鯛そうめんも食べなあかんねや」
「あかんて、そんな義務みたいに」
「迷うところや」
濃い眉の眉根に皺を寄せて、ほんとに悩んでるみたい。笑ってしまう。
「聡実くん、ものは相談なんやけど、」
「なんですか?」
「松山行く前に、寄りたい所あんねん」
「どこですか?」
「お墓なんやけど」

部屋を後にして、渡廊下から中庭を臨むと、池には白地に赤がきれいな鯉と大きくて真っ黒な鯉が寄り添うように泳いでいた。
「蘇芳と黒さんや」
狂児も覚えていたらしい。僕はスマホを取り出し、二匹の鯉を写真に収めた。

旅館の玄関に昨日鯉の名前をおしえてくれた藤本さんが立っていて、お見送り担当らしかった。
「またのお越しをお待ちしております」
深々と頭を下げられ、返すこちらの会釈も深くなるけど、きっと恋人同士と見られている筈。気まずい上に恥ずかしくなる。
門へ向けて歩き出すと、植え込みの白い椿が朝露に濡れてきれいだった。
「きれい」
恥ずかしさをごまかすように呟いた。
「白い椿の花言葉は『至上の愛らしさ』です。他にもありますが」
後ろからの軽やかな声に、狂児と顔を見合わせ、振り返った。
「しじょうの愛らしさ?」
狂児は聞く。
「はい」
藤本さんはまっすぐ狂児を見て返事をした。
「歴史の、史ですか?」
「いいえ、至る上です」
落ち着いた答えに、隣を見上げると、見開く目と目が合った。
「ぴったりです」
狂児は微笑み、肩を抱いてきた。
「至上の愛らしさ、ほんまに」
響く低い声と細めた目元、何より肩に込められた力に頬が熱くなる。
「お気をつけて」
彼女も微笑んで、また頭を下げた。
「素敵なおもてなし、どうもありがとう」
狂児がお礼を言うけど、僕はびっくりして声が出なかった。

建物を出て、駐車場に向かう。今日も良い天気で、気温は昨日より高くなるらしい。
「至上の愛らしさやって!聞いた?聡実くん?」
先程の落ち着いた大人の対応はどこへ行ったんや?と言いたくなるはしゃぎ様で、やや面食らう。
「わかる人にはわかんねや。な?」
「な?って言われても……あの……僕のことやったん?」
「あたりまえやん~」
狂児は嬉しそうだけど、僕は余計に恥ずかしくなった。悪い気はしなかったけれど。

「ほんまに行ってもええ?何もないとこやで?お墓やで?」
車に乗り込んでからも、念を押される。
「いいですよ。行きましょ」
「ありがとう」
狂児は微笑み、律儀に礼を言う。
「でも、住所がな、わからへんねん……聞いてもわからんかったらやめとこ。ちょっと待ってくれる?」
狂児はスマートフォンで通話を始めた。
「成田です~。お疲れ様です」
通話の相手は、組の誰かだと思う。
「……近くまで来たから、行ってみよ思て……聡実くん?ええ、行ってもええ言うてくれましてん……」
「住所わかります?あ、ああ……ほならお願いします。えろうすんまへん、アニキにパソコンやらしてしもて」
――小林さんだろうか?
「住所録、どこにあるかわからん……?」
狂児はちらっと僕を見た。
「ありました?!え?パスワード?……俺もわかりませんわ」
何だか先行きが暗そうだ。
「あ、トモキがおりますのん?ちゃちゃっと開け言うたって貰えます?」
しばらく待つ。
「はい……〇〇町……」
狂児は通話しながらナビの行き先欄を打ち込み、決定ボタンを押し、礼を言った。
「どうもお手数おかけしまして~、ほなら、また明日にでも……え?オコゼ?」
今日の夜には大阪。仕方ないとは言え、もう少しゆっくりしたかったと思う。
はぁ、とため息をつきながら、狂児は電話を切った。
「小林さん?」
「うん、土産はオコゼかアコウでええで、やて」
「昨日、お造りやった?」
「そう。馴染みの小料理屋で料理してもらうねんて。めちゃ生モンやん……どこで買うねん。めんどくさ。最初からトモキに聞いたら良かったわ……あ、線香と花買わな」
行き当たりばったりな旅もいいなと思う。行き先がどこにでもあるようなスーパーマーケットだとしても、誰かの墓だとしても。

線香と花と2㍑ペットボトルの水を買い、車に乗り込んだ。
「ほなら、ポンポン船乗ろか。せっかくやし」
「昨日、寺から見えてた船?」
「そうそう」
イ○ンの駐車場から、次は、一路南へ向かうらしい。
「ポンポン船って言うん?チンチン電車みたいやな」
「はは、似たようなもんやで」

船着場、と言っても、交通量が多い道路のそばにあるコンパクトな設の其処で、車に乗ったまま船の到着を待った。
「このまま乗るんです?」
「せやで、小さくてもフェリーや」
目の前に迫り来る船はとても小さい。
「乗れるんです?」
「センチュリーやったら、乗船断られてたかもな」
小さな船が緩やかに着岸し、人や自転車や車が降りて来る。降りきったらしく係員から乗船の合図を受け、そろそろとレク◯スは、船上の人ならぬ船上の車となった。
船は、海の上を滑り出す。
「出てみる?」
車を出ると、いっそう濃く潮の匂いがする。小さな船は穏やかに揺れながら進み、左舷から下を覗くと、煌めく水面みなもは、手を伸ばせば水を掬えるのでは?と錯覚するほど近い。船尾が白い波を引き、遠ざかっていく街を振り返れば、山の中腹に昨日登った寺が見えて、二人で指さした。昨日は天辺と思ったけれど、遠くから見ると中腹だった。
「もう着くで」
「えっ?もう?」
十分どころではない。たぶん五分も乗っていなかった。昨日のロープウェイと同じように、対岸の島へあっと言う間に着いてしまった。

ナビが南を指して、車窓の景色は街から田舎に移り行く。
行く道に坂はないけれど、途中くねくねと細い道が続く。助手席に座る僕は、対向車とすれ違う時などサイドミラーが電信柱にぶつかるんじゃないかとひやっとするけど、狂児は一度も擦ったりしない。涼しい顔でハンドルを捌いている。
「すごい。ようスピード出して運転できますね、こんな道」
「え?すごないよ?あ?山に鉄砲撃ちに行く時、こんな道やからかな?」
「鉄砲……」
「はは、気にせんといて」
狂児は、これから参るお墓について話してくれた。
「あいつとは長かってん、つきあいはな……あの夏……もう二十年ぐらい前?せやから、聡実くん生まれた頃か?うわ、もうそんななる?」
狂児は今更ながら僕達の歳の差に驚いている。
「若頭が、そん時はまだ補佐やったけど、暑いわ海でも行きたいわ言わはって、そしたらあいつが俺の実家海のそばです、潰れた海水浴場が目の前です、って言うてな、とんとん拍子にハイエース乗ってドライブや」
「海水浴場が……潰れる?」
「そら、儲からんかったら、潰れるやろ」
「そっか。そうやな」
「言い出しっぺの若頭は仕事ある言うて行かんかったな。地元に迷惑かけんようにな、って小遣いくれはって、若い奴ばっかりで行ってん。俺も入れて七人ぐらい?」
僕が生まれた頃もう車乗って遠くへ遊びに行ったりしてたんやな、大人やったんやと頭を掠めた。
「辛うじて建ってたボロボロの海の家でバーベキューしてん。めちゃ暑い日やったな……俺らの他にだーれもおれへん、プライベートビーチや!ってアホなこと言うて」
「楽しそう」
七人のメンツを想像すると怖そうだけど。
「水着女子がおらんやないか、むっさい男ばっかでつまらんって粕下がブツブツ言うて、狂児お前よその海行ってナンパして来いや!って無茶ふりよったけど、潰れてんねんで?更衣室の戸は板で打ち付けられとるし、シャワーも出ぇへん。女の子なんか来るかいな」
「行ったん?」
「ん?」
「ナンパ」
「行けへん、行けへん。なんで行かなあかんねん」
本人にやる気がないのだから仕方ない。
「背中に鯉の紋紋入れてた奴がカナヅチやってな『鯉は海水無理やから』とかぬかして海放り込まれたり、スイカ割りせな!ってなって、地元のスーパー買いに走ったり……木刀はハイエースに何本か積んであってな、」
「木刀……」
「まぁ、仕事柄必要やし?」
狂児はふふっと笑うけど、時々僕は混乱する。乱暴だったりヤクザだったりの仕草を目の前で一度も見たことはないから。あの夏以外は、全く。あの夏だって、僕を守るためだった。
「皆、海なんて久しぶりやから、テンション高うなってもうて」
狂児の海パン姿見たかったな、なんて思う。ビーサン履いて気怠そうに煙草吸いながら海を眺めていただろうか?それとも率先してバカ騒ぎに乗じていただろうか?鶴の紋紋はもう入っていただろうか?
「ただ目隠ししてスイカ割るん、おもんないわーってなって、一対一のタイマンでビーチフラッグやって、勝ったほうが目隠ししてスイカ割って、負けた奴がスイカの横に頭だけ出して埋められて、」
「こわっ」
木刀が頭に振り下ろされるなんて、想像するだに恐ろしい。
「若気の至りやな」
そんな青春の一ページみたいに言って良いのかと慄く。
「埋めるのにつこたシャベルも積んであったなぁ、車に」
「木刀に、シャベル……」
「あはは、やんちゃやろ?」
「やんちゃて」
「ビーチフラッグで、俺、勝ってん。粕下に」
「あー……」
「コワイコワイ!ちゃう!右や、ちゃう!狂児お前ワザとやろ!そうです!お前のコーラにウィスキー入れたん俺です!もうしません!お前のアイスも勝手に食わへんから!ってわめく声聞こえて、『やっぱお前か!』て木刀振り下ろしてんけど外してもーてん。惜しかってんけどな。砂おもっきりぶっ叩いて、目隠しとったら、粕下めちゃ涙目で砂かぶってて、笑えたわ」
僕の予想に反して、狂児はバカ騒ぎ派だった。
「スイカを狙ったんやんな?それとも……?」
「スイカやで?」
「びっくりするやん」
「誰かが、おい、しょーもないことで怪我したらアニキらに迷惑かかるやろってまともなこと言うて、せやから、後はフツーのスイカ割り」
「狂児がやったんは、外道のスイカ割り?」
「言うやん、聡実くん」
くすっと笑って僕を見る。
「皆、極道で外道やからな……俺を含めて。そんで、俺足には自信あんのに!やろうや!ビーチフラッグ!って誰か言うて喧嘩なりかけて。その時、村上が、あ、あいつな?ホームセンターから帰ってきてな……角材一本抱えて」
「角材?」
「木刀は車にアホほど厳重に隠しとってん。だって、お巡りさんに『そこのハイエース~止まりなさい~』って車止められて木刀積んでんの見つかったらアウトやん?引っ張られたらめんどくさいやん?ま、シャベルは『おばあちゃんに木の苗植えるから穴掘って~って頼まれましてん』とか言えるけど、木刀はな、アウトやろ?それも何本も積んでたし」
「アウトですね」
「ははは、せやから、隠しててんけど、厳重すぎて最初よう見つけへんかって、木刀積んでたハズやのにないなあ、なんかスイカ割るモンないか?なって」
「ふーん、で、角材を……え?おかしない?角材?」
「あいつが地元のホームセンターで買うてきてん。『木刀売ってなかった~』て。そんで皆に、角材てなんやねん!お前どこカチコミかけんねん!てツッコまれて。アホやろ?角材て。それもフォーバイフォーやで?まー持ちにくい。持てんことはないけど、持ちにくい」
「フォーバイフォー?」
「えーと、太さが、ツーバイの二倍やから、」
丁度信号で止まったので、狂児は両手の指を使って正方形を作って見せた。
「ツーバイがこんぐらいの……昔の携帯……パカパカするやつ。あれ真上から見たぐらいあって、フォーバイはそれ二つ並べたぐらい」
「え?パカパカ?」
「パカパカ知らん?二つ折りケータイ……パカっと開くやつ」
「あ、ガラケーっていうやつ?」
「え?知らへん?」
「うん。知らん。見たことはあるかな」
「お父さんやお母さん持ってへんかった?」
「持ってたかなぁ?忘れた……あ、おじいちゃんが持ってた。僕が小学校のとき?」
「おじいちゃん……?」
「うん、僕のおじいちゃん」
「ちょっと待って、おじいちゃん?」
「そうやけど?高校のときの先生も使ってたな?」
信号が青になって、狂児は発進させた。ちょっと複雑な顔してる。
「……ま、ええわ。おもろいやん!角材でやってみよ!ってなるやん?」
「なるんや」
「キティちゃん恐怖症、覚えてる?」
「覚えてる」
手の甲に刻まれたキティちゃんはかなりのインパクトだった。忘れられない。
「あの人がスイカ角材でぶっ叩いたら爆発したみたいに粉々に弾け飛んでん。残りは砂にめり込んでたしな」
「粉々……」
「せや、結局食われへんかってん」
「なんや、それ」
「体に絵が入ってる奴らが海で遊んでるって通報されんちゃう?思たけど、そんなことなくてな」
フロントガラスの向こうにちらちらと海が見えてきた。
「夕方、飲みに行こっか適当にどっか泊まって帰ろっかって解散したんやけど、
 あいつに『キョンキョンはうちに泊まったらええやん。下戸やし』言われて、そうしてん。
 おばさん、戸惑ってたけど、ようしてくれはったよ。朝ご飯とか」

ナビが終了を告げて、車を停めて降りた。潮風がぬるく吹く。昨日は風が冷たかったけど、今日は春が来たと思わせるような風。海も南に開けていて、此処に来てやっと海らしい海が見れたと独りごちた。
「ここら辺な筈なんやけど……」
車も偶にしか通らない海辺りの道から更に一本入った小道を、墓を探して並んで歩いた。
「あった。ここや、家は」
二階建ての小さな木造の家は今にも崩れそう。窓も破られている。門扉に打ち付けられた劣化して変色したプラスチックの表札には「村上」と辛うじて読めた。誰も住まない家は早晩こうなってしまうのだろうなと切なくなった。
「うわ、すごいことになってんな」
狂児はなんでもない風に呟いた。大人になるとこんな荒れ果てた光景を前にしてもさして辛くならないのだなとぼんやり思う。
「家のそばやった……たしか。あいつ、帰る前に父ちゃんに挨拶するわ言うて、墓へ……」
狭い砂利道に回りながら、もし狂児が仕事用のバリッとしたスーツ着てたら、なんか怖い人来てるって近所で噂になるんとちゃう?って思った。人っ子ひとり通らないけど。
「あ、あった」
僕の胸ぐらを掴み、狂児をキョンキョンと呼んだ人……のお父さんが眠る墓。
家の周りもそうだったけど、雑草が生い茂り枯れて潮風に揺れていた。
「これは……無理や。雑草引っこ抜いてたら日が暮れるわ」
「……ですね」
「お線香だけあげよう」
車に引き返し、線香と花と水を手に戻った。
「お母さん亡くなったの五年前か……アレはどこにいてるんやろな」
狂児はペットボトルの水をお墓にかけながら、刻まれた一番新しい享年を見て呟く。
「もう、死にはったとか?」
「どうやろな。この墓に、もしかしたらアイツの名前刻まれてるかも思うたけど、なかったな」
「〝ある〟と分かってて来たんかと……」
「いや、お母さんが亡くなったのは知ってたけどな」
「確かめに来たん?」
「俺にもようわからへん。昨日紅茶飲みながらこの島見えて、どうしてるんやろ?生きてんのかな?って思ってん……けど……せやな、確かめたかったんかな」
花立で枯れた葉っぱがカラカラと風に吹かれていて、狂児はそれを引き抜き、放った。
行旅死亡人とかになってなかったら、ええねんけどな」
買って来た花を立て、水を注いだ。枯れた景色に小さな花束だけが色彩鮮やか。
会った事ない人だけど、参ってもいいんかな?と思いながら、お線香を立てて手を合わせた。

「さすがにもう無くなってるな、海の家」
車道から砂浜に下り、並んで歩く。
昔は賑わった海水浴場だったらしいけど、今は僕らのずっと先を、おばさんと犬がのんびり散歩してるだけ。
コーギーやな」
「あの犬?」
「うん」
海は広々と穏やかに煌めいて、長閑。
「『春の海 ひねもす のたりのたりかな』知ってる?」
「知ってる。国語の教科書に載っとった」
「この海にぴったりやと思えへん?」
「うん……僕は、あれ、あの曲思い出してた」
「なに?」
「♪春色の汽車にの~って海に連れて行ってよ~」
赤いスイートピーや」
「♪タバコの匂いのシャ~ツにそっと寄り添うから~」
「寄り添って、寄り添って~」
狂児はふざけて僕の腰に手を回し、ぐいと引き寄せた。
「あほ」
笑いながら、肘でちょっと小突く。
犬を連れたおばさんぐらいしかいないから、まあ良いかとされるがままになっておく。
回された手はするり腰を滑り、そのまま手を繋がれた。

「♪しまう~たは風にのり~」
「成田、八点!」
「やっぱあかん?」
「自分でもあかんのわかってるやろ?」
「あいかわらず厳しいな」
海にまつわる歌を競うように挙げていった。
「♪夏の思い出~」
「「♪手をつないで 歩いた海岸線~」」
目を合わせ笑いながら、繋いだ手をぶんぶん振って。
「「♪車へ乗り込んで 向かったあの夏の日~……」」
歌詞が思い出せない歌は、ハミングでごまかして、あやふやに潮風にとけて消えて。
「♪カニ食べ行こう~」
「「♪はにかんで行こう~」」
「聡実くんが中学の時くれた歌のリストにな、」
「うん」
「少年時代ってあったやろ?」
「うん」
「これ、作詞したん同じ人やで、たしか」
「ほんま?この曲の時はえらい弾けてはったんやな」
「作曲はマシマロの人やで」
「へぇ!」
時々、脱線したり。
「♪やーわらかい日々が波の音に染まる~ まーぼろしよ 醒めないで~」
「聴いた事あるな?なんやったっけ」
スピッツ
「♪なーぎさは二人の夢を混ぜ合わせる 揺れながらかがやいて~」
「ええ歌詞やな」
僕は知ってるけど狂児はよく知らない曲、反対に狂児は知ってるけど僕が知らない曲もあって、楽しい。狂児はジェネレーションギャップを感じて少し凹んでいたけれど。
「♪き~みが胸を焦がすから~」
「海水浴場の定番やったな、それ」
彼女と海に行ったりしたん?聞いてみたい気もするけど、今は僕の隣にいる。それだけで充分。
「♪あーわい恋の端っこを決して離さなければ~」
「そんな歌詞やったっけ?」
「そうやで?」
僕も淡い恋の端っこを離さなくて良かった。

「辛気臭いことに付き合わせて、ごめんな」
「ううん、ええです。海きれいやし」
「せっかく二人で旅行来たのに、墓参りに付き合わせてしもたな」
「ええって言うてるやん」
小さな桜色した貝を拾った。
「ほら、きれい」
掌にのせた貝殻を見ながら、どちらからともなく、向き合うように立ち止まった。
「ほんまや」
片耳を手で覆われ、見つめられる。
手は冷たくてかさついていて、覆われた手越しに波の音がくぐもって聞こえる。
「聡実くんの唇の色みたい」
親指で唇をなぞられ、目を瞑ったら口づけられた。
「僕、うれしい。ここ来れて」
額をセーターの首元につけて、素直な気持ちが口を突いて出る。
「人もおれへん。二人だけってかんじする」
狂児は何も言わない。顎を上に向けられ、また口づけられるけど、唇が馴染むほどに心さみしく感じるのは、なぜ?
「二人だけや」
理由が知りたくて、繰り返す。
「せやな……」
そう呟く狂児の肩越しに海がきれい。

「車、戻ろか」
狂児は柔らかく笑って言う。詰めた日程ではないけれど、そろそろ次へ行く時間。来た道を戻ろうと歩き始める。
「♪な~ぜあなたが時計をチラッとみるたび泣きそうな気分になるの~」
「かわいいこと言うやん、聡実くん」
「別に。歌ってるだけや」
横を見上げれば、お見通しなんやけどな~って言いたそうな含み笑い。
「この歌の彼氏は、ちょっと気が弱い人やねん」
「うん?」
「♪I will follow you ちょっぴり気が弱いけど」
「ああ、そこな。頼りなさ気な男や」
「言い方。狂児と似てるな?」
「どこらへんが?」
「狂児、僕と別れよ思うてない?」
「なに?聡実くん、急に」
立ち止まり、怯んだように眉根を寄せた。
「思うてるやろ?」
否定の言葉はなく、目を瞬かせ、眉根の皺は深くなった。
――やっぱりそうか。
昨日から、いやもっと前から、抱いていた疑念が、確信になってしまった。

「今すぐやないけど、その内とか思うてるんやろ?」
「おみくじなら、気にしてへんで?あんなん印刷された紙切れや」
狂児は困惑したように言う。
「動揺しとったやんな?」
昨日、僕が引いた御神籤には『家庭に不和が起こる予兆』と書かれてあって、狂児の顔には、動揺の色が浮かんでいた。
「聡実くん……これから就職や」
――そんなことやろうと思った。
「この旅行、思い出作りのために?誘ったん?」
「そんなんとちゃう。聡実くん、これから、」
――『これから』ってなんやねん。
続きは聞きたくない。顔も見たくなくて、退き、スニーカーの先の砂を見た。さっき拾ったみたいな桜貝がまた落ちてる。幸せな夢見るようなキスは遠く彼方へ消し飛んだ。これから先、もうそんなキスを受けることもないのかも。
「いや、や、」
腹の底から湧き上がるまま、声はひどく震えて砂の上に吐き出された。
「絶対いや!絶対別れへん!」
一旦声に出すと、自分でも驚くぐらい大きな声が出た。
「聡実くん」
顔を上げると、少し上にある顔は、辛そうに見えた。潮風が黒い髪を吹き上げ、黒い目は何か言いたげで、陽が高い鼻の影を頬に落としていて、辛そうに。
――何て顔や。若頭補佐なんて肩書き持っとるクセに。

「僕は別れたないって言ってるんや!」
思いの丈をぶつける。
「わかったから、聡実くん、」
大人の余裕なのかどうなのか知らないが、早くも持ち直し、落ち着き払ったような言葉が癪に障る。こっちは耳を塞いでしゃがみ込みたくなる衝動に耐えているのに。
「狂児、狂児は……」
声がまた震えてきた。勝手だけど、ぶつけておきながら返事は聞きたくなかった。きっと僕を抉ってくるから。きっとそんな返事を聞かされるから。
「なんも、わかってへんくせに!」
〝聡実〟を彫った時は、彼の名の通り、狂おしいほど僕を欲していたくせに。
今までにそう僕に確信せしめることが幾ばくかあったのに。知らないなどとは言わせないと唇を噛む。
「狂児、僕の名前、腕に彫ってるやん」
あの時もあの時だってと頭の中を色んな出来事が去来して、怒りで目の前が暗くなるっていうのはこういうことなのかと思い知る。
「別れるって言うんなら、腕の僕の名前消してくださいね。どっかの男の腕に自分の名前彫られたまんまとか嫌ですから!」
『うん、そうするわ』と返ってくるのが怖くて、早口で捲し立てる。もう止まらない。
「そんで、消したら写真とって、ちゃんと送ってくださいよ、僕に。証拠ないと信じられへんし」
スマホで撮った写真なんかなんぼでも加工できるな?組の若い人らにやらせるんやろ?『ちゃちゃっと消しといて~』とか言うて!どうしよか?やっぱ一度会う?東京で?この目で確かめさせてもらうわ!」
正面切って顔を睨みつけ、精一杯声を張った。
「組長に消したのバレたら、他の刺青入れてもろうたらよろし。今度こそ……」
「落ち着き、聡実くん、」
狂児は宥めるように僕に近づく。
「やッかましい!近づくな!聞け!」
――狂児はどっちのポケットに入れていた?車のキーを?右利きだから、たぶん右だ。
「今度こそ、うんこの絵彫られたらええねん!」
体を預けるように抱きつくと、煙草と香水まじりの狂児の匂いがして気持ちが揺らぐ。とんでもなくぐらぐら揺れるけど、堪えてダウンのポケットに手を突っ込んで、キーを引っ張り出した。
――ガラ空きやん。
「えっ?」
キーを盗られ、あっけに取られてる。
睨みながら、後退り。
「さいなら!」
背を向け、駆け出しながら、叫んだ。
「僕一人で帰るから!」
「……ッ、待ち!」
追いかけて来る。当然だ。砂上が走るのに適してないのも当然だ。踏み込めばギシッと沈み込む。負荷が半端ない。
――一人で、帰る。帰ったる!
車道へ出る防波堤の切れ目まで、全力疾走。これでも足は速い方。
――別れ話、しながら、二人で、帰る、なんて、
話しながら歌いながらかなりな距離を歩いた所為で、随分と走らされる。
――絶対、いやや、願い下げや!
背後で犬の鳴き声がする。振り返りたいけど、余裕がない。
――車を、停めた、ところ、まで、早く、早く、
キーを握りしめ、気持ちばかりが前へ前へと走る。
――ドア、開けたら、狂児の、荷物を、放り、出して、
風の音。息が上がる。苦しい。なのに、狂児の気配が、
――おっさんの、クセに、速い、やん!
狂児の息遣いが、砂を蹴る音が、
――狂児、めちゃ速い!なんでッ?!四十五やろ?!おっさんやろ?!
高校の体育祭、スウェーデンリレーの第二走者に選ばれて百を走った。
――一人抜かしたんや!思い出せ!
荷物を放り出す余裕なんてない、きっと、ない。
――♪I will follow you 翼の生えたブーツで、
欲しい!今すぐ、それ!
――♪好きよ今日まで 逢った誰より、

「さ、とみ、くんッ!」
肩を掴まれひっくり返り、抱き留められたと思ったら、勢い余って二人してこけた。逃げたい気持ちと逃したくない気持ちが縺れて、体まで縺れて砂の上を一回転。車道へ上がる石段まであと三メートルだったのに。

仰向けに倒れた上にのしかかられ、両腕を封じるように、砂上に縫い付けられた。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
肺が悲鳴を上げる。狂児も苦しそうに息を整えている。
「はぁ、はぁ、」
これは、昨日の夜の体勢だ。薄暗い中、眼鏡も外していたから、顔はぼんやりとしか見えなかった。今はよく見える。黒い目に僕を映してる。好きやという気持ちが溢れてきて、真上の顔もそんな顔をしていて、涙が込み上げる。
「……放して」
「放さへん」
「キー返すから、放して」
「放さへん」
「なんやねん!もう!」
無駄な抵抗とわかってるけど、暴れてみる。頭が上がっただけだった。
「放して!キー返すから!」
手を開き、握りしめていたキーを砂の上に落とした。
「はよう、ひらえや!」
早く拾えばいいのに、狂児はチラッと見ただけ。
「後で、ええ」
「さっきは、別れる言うてたやん!」
「俺からはひとっことも言うてない」
「言われんでもわかるわ!ボケ!」

「待ちんさーい!」
女の人の間延びした声が遠く足元のほうから聞こえる。犬を散歩させてたおばさんらしい。
「あかん、あの人に通報される」
狂児は後ろを振り返り、急足で歩いて来る女性の姿を認めて、焦ったように言った。
「あはは!通報されるん?」
おかしくて口を開けて笑ってしまう。
「俺が襲ってるようにしか見えへん」
「あははは!」
「逃げたらあかんで」
顔が近づいたと思ったら、額にキスされた。
――なんで今、キスなんか。
狂児はよくやく僕の体を解放した。手を差し伸べてきたので、その手を取り、起き上がりざまにぐいっと引き寄せて、唇にキスしてやった。
「お返しや」
「はは、なんぼでもどうぞ。てか、どういうお返し?仕返しってこと?それとも内祝い的なやつ?」
「知らん。自分で考え」
「ほなら、お礼ってことにしとくわ」
急に恥ずかしくなって、眼鏡に付いた砂を払った。
「あっつ」
狂児はダウンを脱いでバサバサ振った。薄手とは言え今日は暖かく、その上走ったから無理もない。
ほんとに二人ともどこもかしこも砂まみれで馬鹿みたいだった。馬鹿みたいと言えば、狂児は裸足だった。
「せやから、速かったんや。ずるいわ」
「ずるいことあらへん。俺かて必死や」

砂を払いながら、徐々に距離を詰めてくるおばさんを見遣ると〝何か〟が欠けていた。
「「犬は?」」
彼女は僕らを目指していた訳ではなかった。通報する気もなさそう。彼女の視線の先を追ってみて、思わず声が出た。
「「アッ!」」
彼女は僕たちに『待て』と言ったのではなかった。犬にだった。
犬は、狂児の靴を咥えて波打ち際を遙か遠くへ走り去っていく。リードを引きずって、意気揚々と。
「ぷっ、あははは!」
「俺のスリッポン、おい、」
狂児は焦った風に、進み出た。
「かえしてー!」
犬に向かって叫んだけど、犬に止まる気はないらしい。
おばさんがやっと僕達が居るところまで到達して、すまなそうに詫びた。
「ごめんなさい、くつ、もう、どうしよう」
オロオロしている。かと思えば、息を大きく吸い込んだ。
「こーら!ユーーーージ!」
犬の名前らしい。大声で呼んだ。
「えっ?」
狂児はびっくりしたように、目を丸くした。
「どしたん?」
「あの犬、ユージ言うんや……アイツと同じ名前や」
「へえ、すごい偶然」
「ほんまや……おーい!ユーーージ!」
飼い主の呼ぶ声には無視を決め込んだユージが、なぜか狂児の声には反応して、靴を咥えたまま振り返った。
「やっぱコーギーや。かわい」
「足みじかいな」
飼い主に聞こえないようにこっそり呟いた。
「そういう犬種や。ユーージ!くつかえしてー!」
狂児は低い声を張った。その呼びかけにユージは方向を変え、僕らのほうへ走ってきた。トコトコとこれが精一杯ですという体で。その可愛さに堪らず三人で出迎えに歩み出た。

「よーしよし、ええ子や」
ユージは狂児の足元に靴を置き、ハッハッと息を弾ませて、もっとほめて欲しそうに見上げた。
首輪には『伊藤ゆうじ』と子供っぽい字で大きく書かれてあり、吹き出しそうになる。
「もう、何しょんね、アンタは。ごめんなさいしなさい」
伊藤さんは叱るけど、ユージはどこ吹く風。狂児がしゃがんで撫でくりまわすものだから、うれしそうに目を輝かせ尻尾を千切れんばかりに振っている。
「ごめんなさいねぇ」
伊藤さんは、すまなそうに謝る。
歳の頃は僕の母と同じぐらいに見えるけど、実際はどうなのかよくわからない。
「ええですよ、戻って来たし。そら、くつ落ちてたらどっか持って行きとうなりますわ。なぁ?ユージ?」
「この子、こんなに人に懐くことないんですよ?どしたんじゃろ?どしたんね?ユージ?」
飼い主に声を掛けられてるのに、ユージはガン無視で、抱っこをせがむように短い後ろ足まで振り上げてアピールしている。僕も撫でたいけど、彼の目には狂児しか映っていなくて残念。

ユージは熱烈だったけど、狂児は片方だけの靴を手に、腰を上げた。
「ほなら、ユージ、元気でな」
今一度頭を撫でられ、ユージは名残惜しそうに行儀良くお座りして狂児を見上げた。
「元気でおりや」

もう片方の靴もすぐ見つかった。靴下も見つかったけど、砂まみれで履けそうにない。
石段を上がり、二人で防波堤に座った。陽に温められたコンクリートが尻に心地よい。潮は引きつつあるみたいで、さっき走った砂浜がさっきより広くなっている。
「ほんまに聡実くんにはびっくりさせられどうしや」
「……狂児が悪い」
蒸し返したくなかったけど、つい詰るような言葉が口を突いて出た。威勢が良かったのはあの時だけで、真下の砂地を見ながら、意味もなく足をぶらぶら振る。もう砂は当分いい。
「キー盗って走って逃げるってなに?」
狂児は笑って言うけど、穏やかな海や遠く霞んで見える島々を眺めながら、また別れ話の続きをするのかと思うとしんどい。別れるつもりなんやろ?なんてことを、なぜ、僕は聞いてしまったのか。別れの気配を感じて堪らなくなったとは言え、なぜ、僕は聞いてしまったのか。しかも旅の途中で。
「俺はユージのおかげで命拾いしたけどな?」
ユージが割って入った所為でなんとなく有耶無耶になったけど、狂児はほんとに別れるつもりでいるのだろうか?さっき聞けたことが、今はもう怖くて聞けない。
のしかかられ動きを封じられていた場所はすぐそこに見える。『放さへん』と言ったのは、ただ体を逃がさないという意味だったのか?思い返してみると、体ごと僕の全てを放さないという風にも取れて、そうだったらいいのにと思う。

「どうする?松山行ってみる?道後温泉
「温泉?」
僕が一方的に振った別れ話だったけど、まるでそんな話などなかったのような言い草に戸惑う。これは、大人の流儀っていうやつなのだろうか?
「なんや砂でじゃりじゃりしてんねん。風呂入りたい」
「僕も、頭が……」
狂児は僕の頭をわしゃわしゃかき回した。
「ほんまや……行く?道後?」
フットワークが軽いのは良いけど、別に温泉じゃなくてもええのにと思う。
「高速の橋の上から海がよう見えて、小さい島がアホほどあって、きれいで……聡実くんに見せてあげたい」
「温泉て……狂児さん、体に絵が入ってるやん」
せやねん。聡実くんだけ入る?温泉?」
「いやや。いっしょがええ」
「ほなら……またにしよか」
睫毛が憂いをのせて下を向く。ヤクザという生き方を選んだのはこの人自身だ。二十歳の頃に組長に誘われ、盃を交わし、一般人とは隔てられて生きる道を選んだ。
手を取り合って一緒に生きていくのなら、僕もきっとその隔たりを感じながらになるのだろう。狂児が僕にそんな人生を歩ませたくないと考えるのはとてもよく分かる。けれど、よしんばこの先『別れよう』と言われたとしても、僕は何度でも拒絶するだろう。狂児が僕を心の底から拒絶するまでは、何度でも。そんな日は来ないと思いたいけど、来るのなら、その時まで何度でも拒絶してやる。僕の気持ちは揺るがない。
「うん、また行きましょ?」
「行けるかな?」
狂児は時々不安げな言葉を漏らす。
「行けるって」
「せやな、行けたら……ええな」
海を眺める横顔に憂いはないけど、諦めが滲んだような、まるでそんな未来はないと言いたげな言い草が気に触る。
「僕、運転するから」
沸々とまた怒りが込み上げてきた。
「ははっ、ええな」
「気弱なこと言うて就職やらまた言いくさってみ?橋の欄干突き破って落ちたんねん」
どんな顔をしているんだろう。すぐ横にあるのに、僕は海に向かって言い募る。
「ハンドル左に思いっきり切ったる。車ごと海に落ちんねん。怖いやろな?でも、二人で死ねるんや。我慢せな」
つい、二人で死ぬことも厭わないと口にしたけれど、僕とて死にたくはない。僕との未来は無いというような、そんな言い方をする狂児が悪い。だいたい僕の名前を腕に彫っておきながら、腰が引け過ぎやと思う。
「死ぬとか言うたらあかん」
「狂児は時々言うやん」
狂児を振り仰ぐと、珍しく真面目な目をしていた。
「聡実くんはあかん」
「なんで?僕はあかんの?」
「冗談でも言うたらあかん。子供が先に死ぬなんてことは……逆縁なんて、」
僕はぼんやりと、中三の時狂児が呟いた言葉を、思い出していた。
『夕飯の匂いのする前に帰らな』
あの時は、意外とちゃんとしてるんやなヤクザやのにと思ったぐらいで、他に何とも思わなかったけど、今はわかる。狂児は、僕を取り巻くあれやこれや、特に僕の親に思いを巡らせている。
「一番あかんことや。それに、立派な橋やから、」
狂児の鼻先はひくついて、無理に笑おうとしてる。
「欄干突き破るとかできひんで」
一睨みで四の五の言う奴らを黙らせる、その目が今は潤んで、僕を見る。
「行けるかな?とか言うからや。行ったらええねん。何度でも行ったらええねん」
何度でも行けるよう願いを込めて海を見た。親のこととか就職とか頭が痛くなることは山積で、防波堤から垂れた足をぶらぶら振る。横から返事は聞こえない。波の音がするだけ。春の海の水面みなもは煌めいて、遙か遠くに船がゆっくりと横切る。
「それにな、」
足をぴっと上げて伸ばすと、遠くの船にスニーカーの爪先が重なった。
「僕かて大人になるんやで?この旅行は奢ってもろうたけど、働き始めたら、僕も出すから」
「……」
また横から返事は聞こえない。黙って奢られとったらええねんって思ってる。たぶん。
「今回は、ありがとうございました」
ふと見た横顔は何故だか少し寂しそう。
「そんなん、ええねん」
「次か、次の次か、その次になるかもしれんけど、僕も出すから」
「聡実くんが働いた金で、」
狂児は噛み締めるように、呟く。
「うん、そう」
「そんなきれいな金、使わんでええ」
「そんなん言うてたら、キリないやろ」
「せやかて、」
「きれいな金汚ない金とか言うてたら、キリないやろって言うてんねん」
「聡実くんは、もう……」
「もう……なに?」
何と言おうとしていたのか、潤む目が珍しくて覗き込む。冷たい手が頬を覆って、感極まったような観念したような顔が近づいて、口づけられた。

「狂児さん、」
「ん?」
「写真撮ろ?」
「海がバックがええな」
二人して向きを変え、狂児は僕のスマートフォンを掲げた。
「逆光になってまうかな……ちょっと設定いじっていい?」
「ええよ」
狂児はちょこっと画面に指を走らせた後、もう一度掲げた。
顔を寄せ合って、カシャ、カシャ、と、続けて三枚撮った。
撮った写真を確認してみたら、僕も狂児も笑ってて、よく撮れていた。
「後で俺にも送って」
「うん」

「すみませーん」
声の方を向くと、伊藤さんがひょっこり脇道から現れた。
「どうしたんやろ?」

「まだ、おっちゃって、良かった~」
道路を斜めに突っ切って歩いてくる。ユージはお留守番らしい。座ったままというのは失礼な気がして、二人して防波堤から降りた。
「先ほどはどうも、うちの犬がすみませんでした……あの、これ、」
下げていた紙袋の口を大きく開けて見せてくれた。中には柑橘が七、八個入っている。
「うちで作りょうるデコポンなんじゃけど」
わざわざお詫びの品を持って来てくれたらしい。
「いやいや、気にせんとってください。僕がくつ脱ぎ散らかしたからやし」
狂児はヤクザなのに恐縮していて、ちょっと面白い。
「穴とか空いてなかったですか?」
伊藤さんは狂児の足元に視線を走らせた。
「だいじょうぶ、だいじょうぶです」
「ヨダレまみれやったでしょ?」
小柄な女性なので、かなりの角度で見上げている。
「まあ、そうですけど」
「わぁ、ほんとごめんなさい」
ぐいぐい紙袋を差し出されて、狂児は苦笑しながら受け取った。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お口に合うといいんですけど」
狂児がカラオケやホテルや飲食店の従業員の女性とオーダーのために喋ってるのはよく見る。けれど、一般の女性と話しているのは珍しくて、つい二人の顔を交互に眺めた。
「……あの、お好み焼きおいしいところ知りません?」
地元の人に聞くのは良いアイディアだと思う。僕はなかなかできないけど。
「あ!それならねぇ……」
狂児が伊藤さんに道順を教えて貰っている間、僕は海の写真を撮った。ユージをガシガシ撫で回してる狂児も撮っておけば良かった。砂浜で裸足の狂児なんてなかなか撮れないのに。ユージも可愛かったのに。

「あの、さっき、写真撮りよぅちゃった?お二人で?」
暇を告げようとして、聞かれた。
二人で自撮りしていたのを見られていたらしい。
「え?ええ」
「差し出がましいかも、なんじゃけど、撮りましょうか?」
狂児と顔を見合わせる。
「じゃあ、あの、お願いします」
僕がスマートフォンを渡すと、伊藤さんは後退り、車道の真ん中に立ってそれを構えた。車もほとんど通らないから、危なくはなさそう。
「そこの上、立っちゃったら?」
ちゃった?……先程からちょくちょく聞こえる方言がわからなくて、狂児を見上げた。
「ここら辺の敬語や。立ったらいいと思いますよ?みたいな意味や」
「狂児、すごい」
勧められるまま、防波堤の上に狂児と並んで立った。後ろの海がきれいに写ったらいいなと思いながら。
「もっとくっついちゃったら?」
「くっついたほうがええですよ、やって、聡実くん」
狂児は何だかうれしそうに体を寄せてきた。
「はい~、笑って~……撮れました」
「「ありがとうござ、」」「もう、一枚~」
防波堤を降りようとして制された。そして、次に耳に入ってきた言葉に僕は驚愕することになった。
「彼氏さんは~、肩抱いて~」
「あはは!」
狂児は笑いながら素直に肩を抱いてきたけど、僕はびっくりして体が強張った。たぶんさっき、自撮りどころかキスしていたのを見られていた。何なら、砂浜で起き上がりざまに僕からキスしたのも。恥ずかしくて顔を両腕に閉じ込めてしゃがみ込みたくなる。伊藤さんは笑顔で「もう一枚~」と言うけど、どんな顔していいかわからない。
「……ええと、大きくないほうの彼氏さん、笑って~」
「えっ?」
女ではないからそう言うしかなかったのだろうけど、彼氏と呼ばれ、またびっくりする。
「ほら、聡実くん、笑って」
横からも笑えと言われて焦る。
「う、うん?」
口角を上げようとするけど、どうにも難しく、こんなんでいいの?と隣を見上げた。
「笑わな、聡実くん」
狂児は僕の肩を抱いたまま、こめかみにキスしてきた。
「わぁ、ラブラブでいいですねぇ!すてき!」
伊藤さんの煽りに破顔してしまう。ラブラブという言葉がなんだか懐かしいようなこそばゆいようなで。
狂児が低い声でぼそっと「凄腕カメラマンや」と呟くので、余計おかしくなって、気持ちが高揚するまま、肩に載った手を取り、ぎゅっと握った。
「とってもいいです!かわいい!」
優しい声が春の潮風にのって、僕らをくすぐった。

伊藤さんと別れた後、彼女が撮ってくれた写真を見てみた。
一枚目は、二人とも取り済ましたような笑顔だった。
二枚目の僕は、肩を抱かれてびっくりしてた。
三枚目の僕は、こめかみにキスを受けながらくすぐったそうに笑ってて、
四枚目は、手を握りあって笑っていて。
「ええ写真ばっかりや」
僕が呟くと、狂児も「ほんまや」と微笑んだ。

車を停めたところまでゆっくり歩いた。
「金沢もええよ、海らしい海見れる」
海岸から吹き上げられた細かな砂がアスファルトの上を這う。
「うん」
「山陰も。蟹食べに行く?」
観念したらしい狂児は、旅先の案を繰り出す。
「うん、ええな、蟹」
「小樽とか、北海道行くんやったら、せめて三泊か四泊はほしいな」
道の脇に小さな花が潮風に揺れている。
「余裕や」
「はは、余裕なん?」
「先に日程決めてから、バイトの休み希望出したらええし」
「せやったら、九州は?行くとこ多いで?知ってる?」
「よう知らん。ラーメンおいしいんやろ?」
「博多ラーメンな」
「めちゃ美味しいやつや」
「なら、次、行こか?」
海外へは行けない。たぶん狂児はパスポートを取得できないだろうから。
でも、国内ならどこへでも行ける。
「腹減ったよな?お好み焼き食べに行こ」
「うん」
狂児といっしょなら、どこでもいい。

――どこでもいいよ。いっしょなら。

 

 


3.2021

作業用BGMについて

Vo入り曲は声と歌い方が好きになれないとなかなか聴き続けられない質(特に邦楽)なので、
良いな思ってDLしてもわりとすぐ手放したりしてます。
今のところ、作業用BGMでよく聴くのは、邦楽は、
FozztoneGalileo Galileiフジファブリック、クアトロ……
最後に上げたバンドは知名度低いですよね?
音がかっこいいな…あ、声もいいな!声超好み!で好きなバンド。
インストバンドは↓のような……私は好きだけど、退屈と思う人多いかな?作業は捗るよ✨
LITE
https://music.apple.com/jp/album/phantasia/279609241?i=279609256&l=en
Tides From Nebula(これより↓海外)
https://music.apple.com/jp/album/ghost-horses/1473122845?i=1473122946
Tortoise
https://music.apple.com/jp/album/tnt-nobukazu-takemura-remix/314904646?i=314905123&l=en
Russian Circles
https://music.apple.com/jp/album/ml%C3%A0dek/471365581?i=471365584


最近きょさとソングとして聴いてるのはFozztone多いです。
Twitterでもしょっちゅう呟いてる。うっとうしくてすみません。
彼らが現役の時は殆ど聴いてなかったのに、
ああ?!これはきょさと!これも!ってなってしまって、
気がついたら、サブスクに上がってない曲聴きたくてCD買ったりしてます。
なんだろ?自分が思うところのきょさとにマッチする曲が多い?
これは皆さんそうですよね?自分なりのイメソンがある。
いつも心にこのきょさとソング♪みたいな。
今の私にはこのバンドの曲が刺さるのです。

例えば、professional carという曲は、僕と〝彼女〟がハイブリッドな国産車に乗ってる。
たぶん二人とも後部座席に乗ってる。
〝彼女〟は成田さんに変換して聴く(力技発動)
「ドライバーは無口でプロフェッショナル」…成田さんの舎弟かな?
「〝彼女〟はいつも眠りが浅いのに今日は一度も目覚めない」
「僕は〝彼女が〟逃げ出すたびに隣の席に座ってた」
「あなたが今元気で暮らしてる様な夢を見てた」
なかなか妄想が捗る曲。
https://music.apple.com/jp/album/professional-car/645777491?i=645777500&l=en


ニューオーリンズ殺人事件
お仕事中成田を思い浮かべられる稀有な曲。
 昨夜ここにあったはずの
 どこへ消えた21グラム
 静の海でつかまえて
 行きは良いが帰りは怖い
……21gで祭林組若頭補佐が動くかどうか?って思うけど……21kgならまだ?(何の話?)
https://music.apple.com/jp/album/new-orleans-satsujinjiken/648944640?i=648944824&l=en


ブランケット(再録)
歳とると、こう、ドラマチックな盛り上げに弱くなりますな……😌
 今 お前を安心させたいんだよ
 心は揺れるものだろう?
 忘れたい事が多すぎたよ
 水を飲む闇の中
両親に何か言われて狂児の家を訪れた聡実くんを妄想してしまって、泣いてしまうやろ……
狂児もどうにかして慰めたいと思ってて。
お風呂でぼんやり聴くと必ず泣く曲。
https://music.apple.com/jp/album/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88-%E5%86%8D%E9%8C%B2/645777491?i=645777499


リトルダンサー
狂児と聡実くんが踊ってる場面が目に浮かぶよう。
成田さんの家の広いリビングで大きな音で曲かけて二人して踊ってるのかわいくないですか?
聴いててめちゃエビス顔😊になる。
運転しててもなってしまうので、対向車に注意しないといけない🚘💦
きょさと的なキモは
 かわいいあの子も
 素敵なレディーになった
 僕はここでずっと
 踊っていたよdance dance
……のところ。14の聡実くんが成長するの待ってた狂児。
かかっておいでbaby かまってちょうだいbaby 遊んでちょうだいbaby……のところも狂児っぽくて好き。
https://music.apple.com/jp/album/little-dancer/793013431?i=793013487&l=en


Galileo GalileiもVoの声がきれいで好きなんだけど、
青臭い曲だな🤔思った曲は全て和田くんに聴こえてしまうようになり、
なんなら、青臭い曲全て和田くんに聴こえてしまうようになりました。どうしよう💦
https://www.nicovideo.jp/watch/sm515082
BURGER NUDS - boys in blue
こういう曲とか。懐かしくて見つけた時小躍りした。ニコ動ですみません。
Youtubeにも同じ動画あるみたいなんだけど、どっちが本家なのかわからない……

 

今日は🍎♪の検索窓に「邦楽ヒッツ」って入れて懐かしい曲に浸ってた。1974〜2018ぐらいまでのヒット曲。懐かし〜😆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ring!Ring!Ring!その2後書き

P.41でカスニキが狂児に「おっそいねんいつまで待たせるんじゃボケ〜」言ってて、
P.46で狂児がカスニキに「アカンアカン!手ェ出すなッ!」って言ってて、
まるでお友達のようだな?思って、
この二人の組の中における関係は?って考えてた🤔のですが、
上下関係なさそう?同僚っぽいのか?と、
もう勝手に上下関係ナシ!これは!って結論付けてしまいました……

この文、実は、カスニキ一人称で初めてみたんです。
再び「ドオッモ〜!!」からまた懲りもせず初めてみたけど、
どうも、ああなってこうなって〜って説明くさい事柄を、
カスニキの濃ゆ〜い大阪弁でまるっと書くの無理だった……😂
でもまた彼には何かを熱く(熱く?)語ってほしい!と思ってる。

893の人達は、何千万とか何億とかの金掠め盗ったろ〜、
ワシらやったるで〜邪魔なヤツは物理的に消したるさかいに〜みたいな、
そういう話を日々してるハズなので、
こんな、こまけぇこと、若頭補佐の左薬指にある日突然指輪がキラリ✨みたいなのは、
話題にも上らないでしょう。知らんけど。
あと、上下関係に厳しいとされる893が、
バーのカウンターに下っ端も幹部も一緒くたに横並びは無いかな?と思う。
他の方、絵師さまや文書きさまが書かれるのは、ちーっとも気にならなくて、
いいぞ!もっとやれー!ヒュー!🥳ってなるのですが、
自分が書くとなると気になってしまって💦そういうのないですか?
そして、早急に893のお仕事に造詣を深めなければ!と思ってるのですが、
焦るばかりでさっぱり……
手っ取り早く頭に叩き込めないものか!やっぱ🐉が如くをプレイするしか?!

わたしは名前を付けるっていうのが面倒で、キライで、
カスですの人しかり、キティちゃん恐怖症しかり、
名前あるほうが利便性が良いのに、なかなか付けられない。
Cabinってバーの名前は、めんどくさくて、地元の歓楽街をGoogleマップで見て、
これでいっか!って決めた。
ヤカラの名前は、Kだから…ってけいじって打ってみたら、候補に漢字で出てきて、
圭二?だれ?お前?ってなったけど、
あ!ダンナの友達の、年賀状やりとりしてる人や!ってなって、
そのままはいかんな🤔ってケイタに……ごめん、圭二くん……
毎回言ってるけど、タイトルも決められないので、小ネタ(うどんのとか)は、
小ネタ集として、十把一絡げでサイトに格納しようと思ってる。

一つの指輪を巡って……みたいな話なんですけど、
昔海外のコージーミステリーにはまってよく読んだので、
少しそういうの意識して書いてみた(おこがましい)
引っ越しが多い人生で、本は都度処分してしまったので、手元にないんです📕
もう一度買っていこうかな。

無理矢理に話を繋げた片鱗がそこかしこに……💦

 

 

 

 

 

 

 

狂聡文 Ring!Ring!Ring! 後書き

「コレ、酔っ払って寝てしもうて、気がついたらはめられててん。
 外れへんねん。どないしよう?」
「あほやなあ」
で済む話です。ほんと矛盾しまくりで頭を抱えます。
あの、言い訳をさせてください。
私は会話を書くのが好きで、会話を少し……数行ぐらい?書いて面白いかも?思ったら、
そこから文にするっていう書き方よくしてて、
この文も狂児が結婚指輪と思しき指輪して東京に現れたら?
聡実くんはどうする?と妄想して、
見るなり泣いてしまう会話を書いたら、止まらなくなってしまったんです。
(自分にはよくあることです)
そんな風に初めてしまった文なので、途中、く、くるしい……って何度もなりました。
(当然ながらよくあることです)
一番苦しかったのは、聡実くんが手袋脱がせるところ。
他人の手袋は容易には脱がせられないです。脱がしたことないけど。
しかも相手は893です。あ、聡実くんが手袋脱がせようとしてる!→手を握り込む。
終わってしまう……完……😂

原典のコミカルさが好き。そしてマジ泣きする聡実くん好きなので、
泣いてるところ自分なりにコミカルに書くのとても楽しかった。
しかし、聡実くんが泣くのわかってたくせに泣いたら泣いたで慌てる狂児とか、矛盾してますね。
初恋な狂児(893でおっさん)なので、
そこは、好きな子を泣かせてしまって慌てるっていう……風に……
読んで頂けると……うれしい……(苦しい)

あと、割と気に入ってるのは、
終わりのほう、想いが通じ合ったとわかった途端、彼氏ヅラかます成田さんです。
構図としては、原典P.26の1コマ目(「そもそもなんでこの選曲なんですか?」)を、
頭に叩き込みながら書いたのですが、
いきなり彼氏ヅラはないだろうよ、成田さんよぉ……とか思いました。
しかしこういう成田さんはもっと書いていきたいですね。
FirstLoveでさとみLoveな成田。いのち短し恋せよおっさん。

↑で会話書くの好きって書いたのですが、狂聡以外で書いた経験あるのは一つだけで、
あ、あともう一つあるか。少しだけど長一。
(長一わかる人いるんかな?わかる人はお友達になりましょう🤝✨)
もう十ウン年前ですよ。初めてSS書いたの。そっからずっと書いてたわけではなく、
子育てやらで忙しく長いブランクがあって、狂聡沼嵌まり込んで、
文書いてみたら楽しくて、今に至るんですが、昔そのCP書いてた当時、
「会話が面白い、情景とかキャラの表情が目に浮かぶよう」って感想頂いてうれしくて、
会話を頑張ろう褒めてくださってるのだからと思ったものです。
絵にしてくださる方もおられて、びっくりするやらうれしいやらでした。
何が言いたいかっていうとね、会話だけをホントは書きたいのよ……
っていう……逃げ口上……